ワイン。絵画。文学。車。更には この正月話題になった「大間のマグロ」。
一般的に「最高級品」「名品」とされる物の真価とは…?
先日とある記事を読んだので、今回はホンの少しだけ真面目に考えてみる。
まずはヴァイオリンに関するニュースから…
「ストラディバリウス」や「グァルネリ」は 現代のバイオリンと大差ない? |
この手のニュースは随分昔からテレビ等マスメディアで度々取り上げられてきたので
「またか」感がしなくも無いのだが、折角なのでもう少し詳しく調べてみることにした。
《実験詳細》
殆どのバイオリン奏者はストラディバリやグァルネリの楽器は、 音色の点で他の
楽器(特に新しい楽器)に比べて優れていると信じている。 この優位性を説明
するために、多くの器械的あるいは音響的な要因がこれまで提唱されてきた。
しかし、その前提となる優位性について十分に検証されてきたわけではない。
奏者のストラディバリの音に対する判断は、バイオリンの価格や 歴史的意義
によってバイアスがかかっている可能性がある。 しかし、これらのバイアス
を排除した論文は報告されていない。
そこで我々は21人の熟練したバイオリン奏者を被験者として、 ストラディバリ
及びグァルネリの楽器と、高品質の新作楽器を比較させた。 実験は、比較的
残響の少ない室内において、二重盲検により、 被験者に楽器を演奏させた上
での印象を聞き取った。
《実験内容》
・用意された古い楽器はストラディバリ2丁、グァルネリ1丁。
・新しい3丁の楽器の詳細は明かされていないが、物は良い。
・奏者はコンクールの参加者のほか審査員、協演オケの団員など。
・奏者自身が弾いて、どちらが好ましいかを自己判断する。
・各奏者には以下の2種類をやってもらう。
A:新古各1本を1分ずつ弾き比べて良い方に投票×9ペア
B:6丁を20分間自由に弾き比べて1本を選ぶ
《実験結果》
・Aの得票数は新グループが112、古グループが77。
・Bの得票数は新グループが13、古グループ8。
・A、Bを通して最も票を集めたのは新のうちの1丁(Aで39票、Bで8票)。
・逆に最も票が少なかったのはストラディバリのうちの1丁(Aで14票、Bで1票)。
【実験詳細に関する資料(PDF)】
【サウンドテスト付の記事】
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●被験者に最も好まれた楽器は新作であった●
●被験者に最も好まれなかった楽器はストラディバリだった●
●楽器の年代、金銭的価値、印象の間の相関関係は殆ど無かった●
●大半の被験者は最も印象の良かった楽器が新作か旧作か判別できなかった●
この結果について、モヤモヤと考えた点を記してみる。
ストラディバリウスやグァルネリといった所謂「楽器界のオールドマスター」
は、それらの名器を弾きこなし、且つ演奏が優れているとされる世界トップの
一握りのヴァイオリニスト達や愛好家により長年支持されてきた稀少品だ。
今回の被験者は、コンクールの応募者と審査員とオーケストラ団員(インディアナポリス
交響楽団員)だが、どうも伴奏オケ団員の数が勝っているらしい点に注目した。恐らく、
彼等は新作楽器を所持し、普段演奏しているのではないか。昔のヴァイオリンはその構造
も現代の物とは違っている。そのせいで" 弾き辛い "と考えた者が居るのかもしれない。
また、生半可な演奏技術の持ち主では短時間でストラディバリウスの良さを存分に引き
出せなかった可能性はないのだろうか?「楽器が人を選ぶ」なんて事も良く云われるが…。
ヴァイオリンの弾き心地や音色を大きく左右する「弓」だが、今回の実験
では全て被験者自身の自前の弓であった事も考慮すべき点だと思う。相応
の弓を用意し、それを用いて弾き比べても良かったのではないか。
実験に用いられたオールドマスター3丁の全てに於いて、果たして保守管
理が行き届いた、楽器としてのピークを保った状態であったのかどうか。
比較対象とされた「現代の最高級品のヴァイオリン」の価格はオールドマ
スターの100分の1程度、とあるだけそれ以外の詳細については一切触
れられていない。ストラディバリウスにしてもグァルネリにしても、30
0年近い経年とバラバラな保存状態のお陰で駄作と呼ばれる物もある。
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このままではエントリーが長くなり過ぎてしまう事に気が付いたので、
つづきは次週という事にしたいと思う。次週はこの話題から発展して、
ヴァイオリン以外のあれこれについても取り上げる予定。
また来週!
関連エントリー:その銘器…グッドヴァイブレーション?(後編)