9/18/2011

" Ana, three minnutes "
~ビクトル・エリセによる3分11秒~



4ヶ月前の出来事。

【 2011年5月:カンヌ(フランス)にて 】
第64回カンヌ映画祭に於いて河瀬直美監督が17日(日本時間18日)、東日本
大震災被災地に捧げる映画「3.11 A Sense of Home Films」を製作すると発表した。

同作品は世界各国の映画監督の協力で製作されるという。
河瀬監督の作品も合わせて約60分の作品として完成させる意向。

実は河瀬監督がこの企画を考えたのは、わずか10日前だという。しかし
その想いは世界各国の監督たちにも通じ、急ピッチで準備は進んでいる。

日本からは女優桃井かおりが監督として参加予定のほか、昨年の同映画祭で
最高賞パルムドールを受賞したタイのアピチャッポン・ウィーラセタクン監督や
スペインのビクトル・エリセ監督らも参加を表明。上映日は震災から半年後の
9月11日で、開始時間も発生時に合わせ午後2時46分にする予定。
同監督の地元奈良県の寺で奉納上映後、被災地で巡回上映したいという


─────────そして4ヶ月後の9月11日、奉納上映は無事行われた。
(イベント公式HPはコチラ→3.11 A Sense of Home Films
今回そのイベントに併せる形で急遽来日した監督がいる。


ビクトル・エリセ監督だ。

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【 Víctor Erice 】
エリセ監督と云えばやはり「El Espiritu de la colmena(1973)邦題:ミツバチの
ささやき」だろう(この映画についてはいつかgkz氏による絵付きのレビューが
観られるだろう…などと勝手に期待して、此処では余り触れないでおこうと思う)。

10年に1作品しか発表しない寡作な監督が僅か4ヶ月で撮った作品とは…?

今回発表されたショート・フィルムのタイトルは" Ana, three minnutes "。
ピンと来た方も居られるかと思うが、この超短編には何と「ミツバチのささやき」
で主役のアナ役に抜擢されたアナ・トレント(Ana Torrent=当時5歳)が登場する。



今回の新作の内容は…大人になり美しい女優として成長した彼女が
正面からカメラに向き合い、フィルムを観る全ての者に対して直接
メッセージを送る・・・というエリセ監督としては「超・超」異色作。

今までの作品で見られ、評価されてきた絵画的・幻想的な手法は
直截的な表現を好まないエリセ監督の真骨頂にも拘らず、今回は
どうしてこの様にダイレクトに真意を伝える作風になったのだろう?

その謎の答えは9月15日放送のクローズアップ現代(NHK総合)で
放送された「 3.11 世界の映画監督からのメッセージ」の中で、
監督自身の言葉により明かされた。この放送プログラムは再放送の
予定が無いらしいので一部を抜粋して文字に起こしておこうと思う。

放送プログラムより 抜粋

" ビクトル・エリセ監督の言葉 Ⅰ "
「震災は自然に依るものですが、
 これは世界中に影響を与える問題です。
 
 今回日本に来たのは
 連帯が必要だと思ったからです。
 今や人々は 国境を越えて連帯しなければ
 生き延びることは出来ないと考えています」



アナの言葉
脅威は自然だけじゃない
福島の原発がまさにその例

悲惨だわ

それなのに 未だ新たな
原発施設の建設が進められている

地球は私たちの故郷なのに
なぜ災害の種を?

わかってる

便利な暮らしを行うには
資源も必要だもの

でも
地球も 疲弊してしまうわ
(" Ana, three minnutes "より抜粋)

" ビクトル・エリセ監督の言葉 Ⅱ "
「私は映画は詩だと考え、
 これまで直接的な表現を避けてきました。

 しかし今回は、
 私たちの「ホーム」地球を守るために
 緊急のメッセージを伝えたいと考えました。

 今一度 文明の有り方を見直す為にも
 世界中の人たちに
 この問題を理解して欲しいと思ったのです」



しかし、この短編は直接的な表現だけで終わっている訳ではない。

アナがPCを立ち上げた際にモニターに一瞬映る
6 AGOSTO 2011(8月6日)という日付、
マッチで蝋燭に灯される火、その脇に置かれたカード、
終始片隅で首を振り続ける扇風機の音、そしてライティング…

彼ならではの繊細な美意識や幻影的な画面と、様々な示唆を示す
細々とした気配り。そしてアナの口から発せられる力強い言葉。
この相対する二者を見事に両立させた素晴しい短編だ。

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原子力による発電についてはこの日本のみならず発電に原子力を
利用する国、またその近隣諸国に於いて様々な論議を呼んでいるが、
立場のせいかその是非の意見表明を避ける人も少なからず居る。

今回エリセ監督が原子力発電にNOを突きつけたフィルムはアナを登場
させる事で自分の代表作とも云える映画を下敷き作られていて、それ故
負う処も多きい筈で、そう云う意味でも監督の心意気が伝わってくる。

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尚、エリセ監督は11日の奉納上映後の現在も来日中で、
17、18、19日にはなら国際映画祭2011にも来場予定との事。
行ける方は是非足を運んで頂きたいと思う。

又このプロジェクトに出品された作品群は被災地を巡回するというが
東京でも上映されるのだろうか。。是非スクリーンで観たい…