9/20/2009

酒とバラの日々/ Days Of Wine And Roses


夫 『 忘れてたよ──なんて素晴しい気持ちなんだ 』

妻 『 ほろ酔い気分ね。 飲みたい?』

夫 『 ・・・ 要らないさ 』


【 Days of Wine and Roses 】

映画『 酒とバラの日々/ DAYS OF WINE AND ROSES 』(1962/米)
監督 ブレイク・エドワーズ 主演 ジャック・レモン  リー・レミック

広告業界で働く夫、美しい妻と幼い娘が一人──ごくふつうの中流家庭。
主人公は浮き沈みの激しい業界で転職も厭わず懸命に働くが
次第に仕事のストレスから飲酒の量が多くなり
その事で夫婦の口論が絶えない日々が続く。
やがて二人は和解を兼ねて一緒に酒を飲むようになるが・・・

本作品は家庭内における夫婦の飲酒がもたらす
落とし穴を描いた非常にシリアスな社会派作品である。
ある意味、お酒に関する禁断のドラマかも知れない…


【 Alcoholism 】

当時、監督自身がその症例に苦しめられたそうだ。
後にジャック・レモン本人も晩年になって告白して周囲を驚かせたらしい。

調べてみたら、
精神的には「薬物探索行動」を身体的には「離脱症状」と呼ばれる行動を伴い、
重度になると本人の意思はおろか家族でもどうにもならず、
時には一般的な医療機関ですら治療が困難な場合もあると知った。

フィクションとはいえ尋常ではない俳優たちの演技、
あれほどまでに鬼気迫って熱演をしていた理由が良く分かる。
多くの人にメッセージを届けたかった表れなのだろう、
この映画が深刻なテーマを扱いながらも大衆的な監督&曲(『 ピンク・パンサー 』シリーズ等)
それに俳優(『 お熱いのがお好き 』等)を揃えて起用した意図も理解出来る。

また作品中にも登場していたが、
アルコール依存症患者の為の相互扶助の共同体があることも知った。
奉仕と友愛の精神に貫かれた彼らの12条からなる伝統はそれだけでも意義深い。


【 Henry Mancini 】

同名曲は映画自体そのものより有名だろう。
1962年度のアカデミー主題歌賞を受賞した後、
アンディ・ウィリアムスが歌って大ヒットしたらしく、
今日ではポピュラー歌手からジャズ・ミュージシャンにまで
スタンダード曲として膨大な数の名歌唱・名演奏を聴くことが出来る。

・・・・・・

『 はかなきは酒とバラの日々 ・・・ 二人の道は霧の中より出でて夢のうちに消えん 』
~Vitae summa brevis spem nos vetat incohare longam. より~
アーネスト・ダウスン ( Ernest Christopher Dowson ) 詩人


この19世紀の詩の一節から引用されたと云われる
原題のワインと薔薇のモチーフ。
一般論的な印象は甘美かつ芳醇な香り──
かけがえのない人生の美しさといったところだろうか。

しかし、夫婦に突きつけられた厳しい現実と
痛切に後悔する主人公の姿を目の当たりにして
フィルムを観終える頃には口当たりのよいイメージの裏に潜む
鋭く尖った薔薇の棘の存在にあらためて気づかされるだろう。