12/13/2009

リクエスト・ノートより

いつも師走に入ると、思い出す知人がいる。

普段その知人とは滅多に会う機会がないのだが、
毎年12月8日には必ずやって来て
「ジョン・レノンの曲を何曲か弾いてくれないか?」と頼む。

自分はいつも「ああ、久しぶり。元気だった?喜んで弾かせて貰うよ」と言い、
リクエストに答えて幾つかの曲を彼の為に弾く。
彼は静かに聴き入り、一曲終わる毎に拍手を送ってくれる。

その後、小一時間程ポツリポツリと会話を交わす。


・・・・・・・・・


   「早いもんだ…ジョンが死んでからもう××年だ」
電気羊 「そう…そんなに経ったんだね」
   「 もしもジョンが生きていたら…今年で××歳になってる筈なんだ」
電気羊 「想像つかないな… ジョン・レノンのイメージはイマジンの頃のままだね」
   「うん。あの頃のジョンの面影のままだ。
    俺がジョンの歳を追い越してから、もう何年経つだろう…」

  「知ってるかい? ヨーコの歳」
電気羊 「ええと? 確か彼女は年上女房だったね」
   「そう。ヨーコはジョンより7歳年上だから」
電気羊 「となると、彼女は××歳か。すごいな…」
   「彼女の印象は昔と少しも変わらない」
電気羊 「しかし××歳とは…」
   「…まあ、こちらも歳を取る訳だな」
電気羊 「そうだね 歳を取る訳だ 笑」



彼の心の内でのジョン・レノンが占める割合がどの程度かは知る由も無いが、
彼にとっての一番のヒーローがジョン・レノンである事は自他共に認める程の熱心なファンだ。
恐らくそれは、これからもずっと変わらないのだろう。


  「あの日の事は今でも鮮明に覚えているんだ」
電気羊「そう。どんな風に知った?」
  「うん。あの頃俺は受験勉強の最中だった。勉強部屋に母親が来て
『今ニュースでジョン・レノンのことが』と知らされてね。
    そこで俺は急いで居間に行って…(略」



・・・・・・・・


その後、
自分は再びピアノに向かい、ジョン・レノンの曲を弾く。
彼もまた酒を呑みながら静かに聴く。
最後の曲、" Imagine "を弾き終わると
決まって「ありがとう。良かった」と彼は言い、
立ち去ってゆく。

振り返ってみると、
12月8日にこの遣り取りをするようになってから、
はや20年以上が過ぎた。会話の内容も20年前と殆ど変わらず、
ジョン・レノンの歳の話を繰り返し、彼が語る思い出話を聞く。
ただ、ジョン・レノンとオノ・ヨーコの 《××年》 《××歳》 の数字が
毎年一つづつ増えていくだけだ。

今月の8日にも彼といつもの遣り取りを交わし、
彼はいつものように立ち去って行った。
彼と再び会うのはいつだろうか。
少なくとも、季節が巡り来年の12月8日になれば
彼はまたやって来てジョン・レノンの曲をリクエストし、
自分もそれに答えてピアノを弾くのだろう。


・・・・・・・・




今年、ジョン・レノンが生きていたら70歳である。