2/28/2010

~Interlude~ 映画 『知りすぎていた男/The Man Who Knew Too Much』 " These Foolish Things " 楽譜についてそこはかとなく思うこと(ネトヲチ編)

≪3編の独立したショート・レビュー≫

映画 『 知りすぎていた男 / The Man Who Knew Too Much 』

【 The one note man 】

まず最初に"一音符の男"の話を紹介させていただきたい。

” 朝、ひとりの男が家を出る。バスを乗り継ぎアルバート・ホールの前で下車する。
ホールに入ると帽子とコートを取り楽器ケースから小さなフルートを取り出す。
それから他の演奏者たちと一緒に広いステージに上り自分の席につく。

しばらくすると指揮者が現われ合図とともにシンフォニーの演奏が始まる。
フルートの男はじっと座っている。冒頭から序盤にかけてゆっくりと
感傷的なフレーズが奏でられる。男は座ったまま楽譜を見つめている。

・・・・・・

曲調も繊細な表現から凝った和声へと転じて行く。フルートの男は座ったまま
目で楽譜のページを追っている。曲は中盤に差し掛かり様々な音楽的要素でもって
益々複雑に展開する。それでも男は指で楽譜のページをめくっている。

・・・・・・

指揮者の身振りもどんどん大袈裟で派手な展開になって曲は終盤に近づく、
ようやく男は椅子から静かに立ち上がる。指揮者の視線が初めて彼に向けられる。
男はフルートを口に持っていく・・・タクトが振られる──ワン・ノート──

たった一音、男はフルートを吹き鳴らす。

一音符だけ鳴らした後、男は楽器をケースにしまい込み、
ひとりオーケストラから離れると帽子を被りコートを着てホールを出る。
それからバスに乗り帰宅してシャワーを浴びて着替えて夕食をとり、
歯を磨きうがいをすませてベッドにもぐり込み…スタンドの灯を消すのだった。 ”

【 The Man Who Knew Too Much 】

長くなってしまったが…上記の話は『 ザ・ワン・ノート・マン 』という
英国の古い漫画のだいたいのストーリーである。
このただ"一音符"だけ音を演奏する箇所に着目して作られたのが
巨匠ヒッチコックの『 暗殺者の家 (1934) 』、そして後にリメイクされた
『 知りすぎていた男 (1956) 』ということのようだ。

もちろんこれらの映画には沢山の要素があるし、ヒッチコックなら尚更だろう。
ただ、サスペンスの巨匠といわれる人が持つ宝のようなマクガフィンの
アイデアの引き出し──その一部が覗けたようで何だか嬉しい。

【 Bernard Herrmann 】

映画では楽器がそっくりそのままフルートからシンバルに取り替えられてあるが、
英国の作曲家 アーサー・ベンジャミン( Arthur L.Benjamin )による
" ストーム・クラウド・カンタータ "がここでは見事なまでに設定にぴったりとはまっている。

当初、リメイク版の音楽を担当したバーナード・ハーマンは作曲の依頼を
受けたようだがオリジナル版を観て" Storm Clouds "のスコアを気に入り、
結局は編曲というかたちで使用されることになった。
カメオ出演好きなヒッチコック監督の意向なのか?
ハーマン本人も指揮者役でスクリーンに登場している。

もっとも、映画音楽としては妻役のドリス・デイ自ら歌う
『ケ・セラ・セラ/ Que Sera,Sera 』( Whatever Will Be,Will Be )
こちらのイメージの方が一般的だろう。


text and traced by【 gkz 】


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" These Foolish Things "

作詞/作曲:Harry Link Holt Marvell
唄:Bryan Ferry アルバム:"These Foolish Things(1973)"より


彼女の名前は Anna May Wong (中国名:黄柳霜)は 女優としてハリウッドで初めて有名になった
アジア人で、エキゾチックな美貌で「チャイニーズ・ヴァンプ」等と呼ばれ人気を博していました。
しかし輝かしい成功の裏側には差別の苦悩との闘いの日々。与えられる役柄も限られ、しかも
ヘイズ・コードと呼ばれる異人種間の恋愛描写を禁止する法律までもあったとか...。

心機一転、ヨーロッパやブロードウェイに進出した彼女は実力を付け、
経験を積み再びハリウッドに戻りますが、やはり以前と変わらぬ扱い....
しかし、中国系アメリカ人の家庭を舞台としたミュージカル映画(Flower Drum Song)の
出演をきっかけに彼女に運気がまわって来たと思われたが...。


そんな彼女を陰で支えていたこの曲の作詞家:
Holt Marvellのペンネームを持つ『Albert Eric Maschwitz』。
一説には彼女への断ち難い思いを綴ったものでは?と言われています。


「口紅の付いているタバコの吸い殻、
 ロマンチックな観光地への航空券
 いまでも心臓がドキドキしてくる
馬鹿みたいなことで君を思い出す
 ~中略~
 3月の風が吹くと心が躍り出して電話を掛けたけれど、誰が出る?」



終わった恋に振り返る男。
しかし、女は振り返ることはない。なぜなら…


結局彼女はミュージカル映画出演後、心臓発作によりこの世を去ってしまいます 。
生涯彼女は独身でいたその訳は...。


" These Foolish Things "

数少ない英国産のジャズ・スタンダード・ナンバーの曲を英国の伊達男ブライアン・フェリーが切なく、
けれど何処かコミカルにアプローチし、またニューロマンティックな彼が歌っている点も興味深いです。


text by 【 DJ 】


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楽譜についてそこはかとなく思うこと(ネトヲチ編)


ある時、暇に任せてニコニコ動画の投稿動画を眺めていたら
こんなタイトルが目に飛び込んできた。

【究極の楽譜!】 ABCの歌

ふむ?何だろう・・・
興味を惹かれ再生してみたが、ピアノと歌の楽譜が音に合わせて流れてゆくだけで、
初めのうちは一体どの辺りが「究極」なのかさっぱり分からず困惑した。しかし
嵐の如く付けられている数多くのコメントを見るうちに、やっとその意味がわかった。

その楽譜は、歌詞(この曲の場合はA、B、C…の英大文字)に合わせて
ピアノの伴奏譜が文字を形成するように作られていたのだった。


【 こんな楽しみ方もあったのか… 】
楽譜を見慣れた者にとっては『"楽譜"は"楽譜"でしかない』と、何時の間にか
思い込んでいるものだ。一方、楽譜を見慣れない者にとっての"楽譜"は
"得体の知れない記号のオンパレード"に見えるのもまた頷ける。この動画を
投稿した人はアレンジもされている訳だから、音楽的な知識も会得しているに
違いない。それにも係わらず、楽譜に不慣れな者の気持ち(というか目線)も
理解した上でこれを思いついたのだ。これなら、万人が楽譜を楽しむことが出来る…
投稿者氏のアタマの柔らかさに暫し脱帽した。

さて、ニコ動はIDを取得してログインしなければ動画を閲覧出来ないので
YouTube版も付記しておく。こちらにも賞賛のコメントが寄せられていた。
MIDI animation? Ultimate ABC Song / 究極のABCの歌


【 目を細めてご覧下さいませ 】
今回のレビューを書くに辺り、何かオマケを…と思い、先の投稿者を見習って
拙ブログのタイトル「アナヨル」を楽譜に起してみることにした。

※画像をクリックすると大きい画面でご覧いただけます


何のことは無い 所詮は単なる二番煎じなのだが、
ヴァリエーションとして拙ブログ版はピアノソロ譜に決め、
コード進行を曲と合わせた。更に右手部分のメロディーは
" You And The Night And The Music "のメロディーにしてみた。
楽譜起こしも、ネットウォッチもまた楽し。


text by 【 電気羊 】