少し前に、こんな事があった。店でピアノを弾いていると
20代半ばと思しき女性が二人話しかけてきた。
「ジャズ、いいですよね」 おや、珍しい…
「私たち、代官山のシガー・バーによく行くんですけど、そこでもジャズが聴けるんです」
「その演奏が気に入ったら、ピアノの上のブランデー・グラスに1000円入れるんですよ」
「ここはそういうシステム、無いんですね」 …シガー・バー…ブ、ブランデーグラス…
その後、今度はこんな記事をネットで見かけた。
ああ成る程、こういう事だったのか、と何となく合点がいった。
ちまたで広がる“女子JAZZ人気” 専門書の登場でブームが加速 |
うーん、記事中の「ディズニー・ジャズ」「ジブリ・ジャズ」はまだ想像出来るが「アゲ系ジャズ」や
「クラブ・ジャズ」という言葉になるとその音は全く見当がつかない。ピアノがガンガン…
板橋文夫やバド・パウエル?…でも無さそうな。ならば、と早速図書館で本を借りて眺めてみた。
Something Jazzy 女子のための新しいジャズ・ガイド
島田奈央子/著 出版社名 駒草出版
手に取るのも躊躇ってしまう様な、パステル・ピンクの装丁。
帯の「毎日、女子ジャズ。」というコピー…
内容も予想通り…というか予想以上に女子向け度満点の
柔らかい文章表現がこれでもか、とずっと続いていた。
やがてひとつのフレーズが目に留まった。
" JAZZY "
著述によると「敷居の高そうな、難解そうなジャンルでも《○○風》ならば気軽に取り入れやすい」
のだそうだ。そう云われて考えてみると、若年層の人たちや女性向けの雑誌の表紙を飾る
キャッチ・フレーズにはよく「××ひとつで○○気分!」「××でプチ○○に」等の《○○風》を
言い換えた言葉が躍っているような気もする。今回の"JAZZY"なる言葉も「~気分」
「プチ~」「~風」の延長線上にあるのだろう。手軽に気分を満喫したい、というところか。
何時の頃からか、何かの趣味性のある物にどっぷり浸かって楽しむ人たちを、周囲は
"キモヲタ"的な目線で認識するようになった。この「~気分」を自称して憚らない人は、
自らが厭う"キモヲタ"に陥る可能性を否定したいが為の、予防線?のようにも感じる。
さて、「○○風」というの言葉の肝は「○○」に似てはいるものの決して「○○」ではない。
云わば「ニアリー、バット・ノット・イコール」だ。と言う事は、ほんの少し「○○的要素」が
含まれているだけでその範疇に入ってしまう事態が度々起こりうる、という事か。。
一昔前に、楽曲紹介のコメントで"Funky"と評された音源を聴いてみては
"なんじゃこりゃ、こんなの全然Funkyじゃないよ(ショボーン)"となったダークな記憶が甦った。
また上記の記事に対するネット上でのコメントを眺めると
・ジャズ聴くと言ってる女の大半は TSUTAYAで適当にコンピ借りただけ ・女が食いつきだすともうそのジャンルおしまいだよな ・ジャズと蕎麦って女が手を出しちゃいけない分野だろ ・まぁた何処ぞの畑荒らして逃げる気か イナゴの大群… ・スイーツっぽい友達がおしゃれなジャズ聴きたいとかぬかしてたからジミーマクグリフ貸してやったw ・どうせまた広告代理店が作った「ありもしないブーム」だろ |
しかし、その正体がイナゴの大群でもツタヤでコンピ借りるだけでもいいんじゃないかな、
と思う。例え一過性の俄かブームであっても元から好きな人には何ら問題無い筈だ。
もしかしたら、本当に興味を持ってJAZZを聴き始める人も少数ながら居るだろう。
終わりに。
この機に乗じてモテようと目論む人への老婆心。
間違っても、昨今の「ジャズ好きな女子」に詳しいウンチクを語らざるべし。
ジャズに詳しそうな雰囲気を醸し出しつつも全てを語らない…そんな高等テクを
会得出来れば、貴方も“女子JAZZ”人気にあやかる事が出来る。
かも知れない。