5/30/2011

ぞうのババール / L'histoire De Babar


【 L'Histoire de Babar, le petit éléphant 】

” おおきなもりの くにで 
ちいさな ぞうが うまれた
なまえは ババール

かあさんは このこが かわいくてたまらない
ゆりかご ゆらゆら はなでゆすって 
ねんねん こもりうたを くちずさみながら
やさしく ねかしつけて やるのだった ”


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~ Histoire de Babar par Jean de Brunhoff (1939) ~
『 ぞうのババール 』 ジャン・ド・ブリュノフ作 / 矢川澄子 訳 評論社 (1987)

【 読み聞かせる物語─Read the story aloud 】

伝え聞いた話だが…とある心理学者によると、物事について
”順”を追って述べること──つまり叙述文で物語やストーリーを
語って行くことは人間の知性の発達にとりわけ重要だという。

特に顕著なのは幼い人間だ。この頃の人間は自分が体験していく
現実と出来事を丸々、順を追って語ったりする。まずはそうやって
世界を理解して行くのだ。多分自分もそうだったと記憶するが……

遥か昔──、本やコンピュータが想像すらされなかった時代に
あっても吟遊詩人やストーリーテラーの語り手たちは熱心な
聞き手たちを得ていたと云うから…… たとえいつの時代であれ
物語ること、或いは良く出来たストーリーを聞いたりするのは
人間にとって普遍的な欲求であり、抗い難い魅力があるのだろう。

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ジャン・ド・ブリュノフ作『ぞうのババール』は主人公の象が
森で母を失って独りぼっちになった後、町へ出て人間たちと出会い、
そこで様々な経験をして、やがて元の森に帰って象の王になるという
物語である。鹿やライオンが主人公の他作品への影響やその類似性
……これについては今回は言及するのは止めておこうと思う。

【音楽と朗読─Music and Readings】

この、『ぞうのババール』に音楽をつけている作曲家がいる。
20世紀前半のフランス6人組と云われる作曲家集団の一人
であり、原作者のジャン・ド・ブリュノフとは親しい知人であった
フランシス・プーランク Francis Jean Marcel Poulenc という人である。
第二次大戦中に彼はいとこの子供たちにせがまれて、この
絵本に音楽をつけ始め、1945年頃に完成したと云われる。
後に録音されて音源となった中から幾つか紹介したいと思う。

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Jean Marc Luisada and Jeanne Moreau『サティ,プーランク』 POCG-1858
ジャンヌ・モロー(語り)ジャン=マルク・ルイサダ(p)

1994年にパリで録音されたジャンヌ・モロー版ぞうのババールは
彼女自身の圧倒的な存在感が際立った28分間に仕上がっている。

ジャンヌ・モロー──『死刑台のエレベーター』、『突然炎のごとく』、
『雨のしのび逢い』、ルイ・マル、フランソワ・トリュフォー、
ミケランジェロ・アントニオーニ、etc...、いわずもがな、
ヌーヴェルヴァーグを、そして映画界を代表する大女優である。
たとえ仏語が分からなくても情感は十分に理解出来るだろう。
彼女はマルグリット・デュラス原作、ジャン=ジャック・アノー監督の
映画『愛人/ラマン』(1992)でもナレーションを担当している。

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Kiyoshiro Imawano and Aki Takahashi and Sumiko Yagawa『プーランク/ぞうのババール』 TOCE-6030
忌野清志郎(語り)高橋アキ(p)

こちらは絵本の訳者である矢川澄子氏の立会いの中で
録音された作品である。語り手は忌野清志郎。
とてもシャイな感じで誠実な印象だ。1989年東芝EMIから発売。

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Kyoko Kishida and Izumi Tateno『音楽と物語の世界』 OVSL-00017
岸田 今日子(語り)舘野 泉(p)

日本で朗読といえば森繁久彌とこの方だろうか? 
女優 ─── 岸田今日子、

僕にとっては『傷だらけの天使』のイメージが強く残っているが……
2001年の横浜みなとみらいホールでの録音とある(ライブなのかは不明)。
それにしても馴染みのある声で語られるととても安心することが出来る。

”ゆりかご ゆらゆら はなでゆすって 
ねんねん こもりうたを くちずさみながら
やさしく ねかしつけて やるのだった ”


不思議だ。何だか布団にもぐりこんで横になりたい気分になる・・・

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by gkz