10/18/2011

アメリカの夜 浅川マキ


【Day for Night】


からっぽの夢乗せて
午後の陽射し避けながら
車が軋む 爆音残す

知っているかい
あのシネマ「アメリカの夜」をさ
何もかもがブルーのフィルターに紛れている
そうさ
いま このサングラス気に入っている

~アメリカの夜 作詞作曲浅川マキ(1986)より 抜粋引用~

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アメリカの夜───というのは映画の撮影技法を表す言葉だ。それはカメラの絞りと光学フィルターの操作で露光を調節して昼を夜の場面として撮影してしまう手法のことで、day for nightと呼ばれるハリウッド映画独特の”夜”のことを指す。

つまり言い換えるなら疑似夜景のことである。一年中青空が隅々と晴れ渡っているカリフォルニアならではのアイデアだったのだろう。今ではごく当たり前の手法だろうか…。

浅川マキさんがいつからサングラスをするようになったのか・・・僕などには詳しい経緯は分からない。でも、そういえば、まだピットインが今の新宿3丁目ではなく紀伊国屋書店の裏側にあった頃、僕はマキさんに偶然遭遇したことがある・・・

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【Shinjuku Pit Inn】

その頃、僕はまだ学生だった。日頃からほとんど学校へは行かずに神保町の喫茶店や雀荘に入り浸り、時折、思いつくままスタジオに入っては漠とした空虚な時間をやり過ごしていた。ピットインへは新宿店に六本木店にとあの時期はちょくちょく観に通っていた。
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それで誰の演奏だったかはもう忘れてしまったけれど、新宿ピットインでのライブが終りしばらくしてから終演の混雑も収まって、僕は店から出ようとしていた。ビルの表に出ようとするその帰り際、人気のない階段でこちらを見下ろすように座っているひとりの女性がいた。

その人は長いコートの裾からブーツを投げ出すように足を組んだ格好で座っている。悠然と煙草を吸いながら真正面に僕の方を見ている。が、サングラスをかけていて表情はまったく見えない。どこかしら凍てつくような空気があった。

出演者の誰かを待っているのだろうか。彼女は歩いて近づく僕の存在などまったく気にも留めずに真正面を向いたまま煙草を吸い続ける───、

擦れ違いざまにサングラスの隙間を横目で覗いてみた。だが、長い黒髪の影に隠れてしまっていて何も見えなかった。その間も彼女は相変わらず微動だにせず真正面を向いたままだった・・・

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【Sunglasses】
そういえば長谷川きよしさんもサングラスをしている。デビューするまでは違ったそうだ。彼の著作によると本人はまったく気にせず、周囲の意見をよそに、むしろそのままで構わないというスタンスだったそうである。

ところが銀巴里に出演してマキさんと出会い、彼女に勧められてサングラスをするようになったという。マキさん曰く「あなたね。そのほうがセクシーよ」とか、そんな話だったと記憶している・・・。
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と、今回のエントリーは話の脈絡がないまま終わってしまいそうです。是非もなし……「アメリカの夜」はフランソワ・トリュフォー監督 La nuit américaine のタイトルとしても有名です。ですので次回は映画に続けられたらと思っています。


by gkz


参照資料
『アメリカの夜』 浅川マキ (1986)東芝EMI
『アメリカの夜』 阿部和重 (1994)講談社