【May peace and Joy be yours at Christmas and throughout the new year】
儘にならぬが浮世の常───年の瀬が迫ろうとしております。今回は以前にエントリーした、映画『スモーク/Smoke』の再録になります。決して更新も儘にならずと云うことではありませんよ…。”時は小きざみな足どりで一日一日を歩む”と言う、大変に有り難い映画なのでございます。さて、それでは皆さま、今年一年ありがとうございました。(尚、次回更新は大晦日を予定しています) |
::
【 SMOKE 】
ブルックリンの小さな煙草屋。常に人が入り浸っている店は、近所の住人たちの憩いの場となっていた──場外馬券売り場の男やミュージシャン志望の青年など。無駄口を叩いては議論とも雑談ともとれる会話を交し合う常連客たち。 映画『スモーク』はニューヨーク庶民の風景、市井の人々が描かれている。淡々とした画面構成の上に実力ある俳優がドラマを演じてみせる。シンプルでいて台詞の”間”が特徴的だ。原作・脚本のポール・オースターは『東京物語』を何度も観たそうだから。この作品では小津安二郎を意識したのかも知れない…それとも監督のウェイン・ワンの方だろうか…どうだろう。 :: 【 Auggie Wren's Christmas Story 】 |
煙草屋の主人オーギー・レンは几帳面にも14年間ずっと、毎日同じ時刻に同じ場所で写真を撮り続けている男だ。彼はライフワークのように街角を守る歩哨のように通りに立ち歩き去って行く人々をレンズ越しに捉える──。四千枚を越える数の写真は、一見すると同じに見えるし、何も変わらぬように見える。オーギー・レンはゆっくりと注意深く写真を眺めることを示唆する。そして呟くのだ「明日、また明日、また明日と」 物語と呼ぶべきものへの断片。実際には一枚一枚が異なる一瞬──写真というのはそれを捉えている・・・そういうことだろうか。 |
::
【 Innocent When You Dream (Barroom) 】
映画本編の見所はクリスマスにまつわる話が語られる終盤のカフェでの場面だろう。長い台詞が時間にして10分以上も続くシーンだ。ライフワークとなった写真、その撮影に使うカメラ。そのきっかけとなった秘密について──オーギーは全て語り終えると一本の煙草を取り出し温和な表情で静かに笑ってみせる。 それから火をつけるライターの音を合図に緩やかなワルツのリズムが背後に流れ出す。トム・ウェイツの歌声が被さり、そのまま白黒フィルムに変わり物語はCodaへと移行していく──"酔いどれ天使"と聖なる夜の饗宴。 ・・・・・・ この箇所は実際に1990年のクリスマスの朝、ニューヨーク・タイムズ紙に掲載された『オーギー・レンのクリスマス・ストーリー』を忠実に再現しているのだろう・・・他のシークエンスとは異なった質感が面白い。 広角からアップへと変化する映像は人物の内面や葛藤が明らかになる様子と呼応し人と人が互いに親密となり共感し合う──そんな様子をも表していると思う。 |
::
『Smoke』(1995) Directed by Wayne Wang, Paul Auster
「物語の終わりには誰もが最初に較べると少しは幸せになっている。悲劇だと舞台の上で死ぬことになるが、喜劇では皆がまだ持ちこたえていて続くんだ。良いことも起きるし悪いことも起きる。そう そして人生は続く」 ポール・オースター :: 参照資料 |