5/17/2009

ラスト・ショー/ The Last Picture Show


【 ≒New Hollywood 】

「ニューシネマ、暴力、セックス、アート」
TIME誌の表紙をセンセーショナルに飾ったのは1967年のこと。
『俺達に明日はない/Bonnie and Clyde 』を皮切りに
アンチ・ヒーローやアウトロー、反体制で反抗的な若者を描いた作品が、
60~70年代を通して数多く製作された。
・・・
ニュー・シネマ全盛の1971年。
そんな時代の趨勢の中、異色ともいえる一本のモノクロ映画が発表される。



【映画 『ラスト・ショー』 】

激動のアメリカ~ケネディ暗殺、ベトナム、etc,~
変貌する60~70年代に抗うように回顧される
"失われたアメリカの夢"

【 November1951-October1952 】

テキサス州郊外の田舎町アナリーン(原作ではタリア)を舞台に
1951年11月から翌年10月までの一年間を描く青春群像劇。

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監督ピーター・ボグダノヴィッチによる人間像はとても味わい深く。
自然で程好く抑制された演出とともに、
人生の挫折や苦渋といったドラマが淡々と描写されている。

【開拓史への挽歌】

"ブルー・ノーザース"と呼ばれる憂鬱な北風が吹く丘。
灰黒色に染まる道、 朽ちていく町の建造物。
画面奥にまで拡がる空の映像~ジョン・フォード的と評された俯瞰の風景。

・・・


ボグダノヴィッチは以前から映画界には少なからず関わっており、
" Esquire "誌や" Vogue "誌にコラムを持つ有名な評論家であった。
6000本の映画を観ていたといわれる。
又インタビュアーとしてジョン・フォードやフリッツ・ラングついての著作もあり、
長編2作目である本作品の監督は31歳のときだった。


「私が一時感じていたように、世の人々も多分、
未来はどちらかといえば荒涼としており、
現在は特別に楽しいものではないと感じ始めたのだ」

「だとしたら、過去以外のどこに我々は目を向けたらよいのだろう。
私は人間は過去から学んでいくのだと思う」
Peter Bogdanovich


【クラシック/古典作品への敬意】

主人公たちが通う映画館に貼られた『幌馬車(1950)』『硫黄島の砂(1949)』のポスター。
劇中上映される『花嫁の父(1950)』、銀幕に映る若きエリザベス・テイラーの姿。
そして最後に上映される『赤い河(1948)』。


・・・

ニューシネマ期以前の古い映画、
すなわちかつてアメリカ人なら誰でも見ていた
ジョン・フォード監督やハワード・ホークス監督作品。
彼らに代表される古典映画への回顧の欲求や願望がそこに窺える。


【徹底された時代考証】

映画の為に新聞広告を載せてまで捜した50年型・フォード" FORD "コンバーティブル。
白く優雅な車体のカー・ラジオから聴こえるのは
当時のカントリー・ソングのヒット曲…


【 Cold,Cold,Heart 】

「君が怒りにまかせて僕を口汚くののしる時
僕は涙の海に投げ込まれるんだ
身に覚えのないことへの報い
心では分かってるよ
悲しい過去の想い出が
僕たちをこんなにも引き離してしまったんだ」

Hank Williams


【開拓史の形見 Country and Western 】

"コールド・コールド・ハート"(1951)
ハンク・ウィリアムズ Hank Williams (1923-1953)
・・・
伝説的といわれる独特の歌唱と吟遊詩人ならではの豊かな感受性。
~喪失した愛への希求~
失くしたその辛さ冷たさを苦吟節の如く歌い上げる。


【フロンティアへの回帰】

再び…
アメリカ60~70年代~混迷する価値観、
キング暗殺、キューバ危機、無残なアメリカの大義、etc...

時代の中で迷い見失った道標。

人々はハンク・ウィリアムズの声に、
その心の底から唸るように震える喉にこそ
懐旧の念とともにアメリカン・ドリームの残滓を
強烈に感じたに違いないのではなかろうか ─ 。



映画「ラスト・ショー/The Last Picture Show(1971/米)」127分

【スタッフ・キャスト】

原作
ラリー・マクマートリー Larry McMurtry

1936年テキサス生まれ。
車を運転して行ける所までしかいかないという生活信条の作家・脚本家。
E・アニー・プルー原作 『ブロークバック・マウンテン/Brokeback Mountain 』で
2005年アカデミー賞・脚色賞を受賞。

 
監督
ピーター・ボグダノヴィッチ Peter Bogdanovich

主演
ティモシー・ボトムズ
ジェフ・ブリッジス
シビル・シェパード


ベン・ジョンソン
クロリス・リーチマン
エレン・バースティン
アイリーン・ブレナン



参考資料
「ラスト・ショー」VHS
「ラストショー」早川書房
「世界の映画作家23 」キネマ旬報
別冊太陽「アメリカン・ニューシネマ'60~'70」平凡社
「私のハリウッド交遊録」エスクァイア マガジン ジャパン
「ハリウッドインプレッション」フィルム・アート社
「ハンク・ウィリアムズ物語」音楽之友社
「Hank Williams/Cheating Heart」Polydor
「Alone and Forsaken」Polydor
「The Legend Lives Anew Hank Williams with Strings」MGM