6/07/2009

ALL TOO SOON




~お日さま 昇ってく

これが おいらの歌となるんだ

お日さま 昇ってく

これが おいらの歌となるんだ

ゆううつに なりかねないが ところが

一晩中 ゆううつだったんだ~

【 Langston Hughes / Fine Clothes to the Jew 】



私と本との出合いは実のところそんなに長くは無い。
サブカルチャーにどっぷり浸かっていた20代迄残念ながらまともな本など読んだことが無く、
精々読んだ本と云えば「昭和事件簿の裏側的本や、プロレス・ネタ、音楽関係の本、そして
ガロを中心としたの漫画」等の本と云うより「雑誌」だった。

そんな私が友人の勧めで読んだ本「セブン・ティーン /大江健三郎」、偶然参加した森村誠一氏の講演
(森村誠一が語る大藪晴彦の世界)」は衝撃的であり私の閉塞的世界観をいとも軽く打破し、
その後は手当たりしだい国内・海外の作品を貪った。

そして1冊の本に出会う【 キャバレー/栗本薫 】だった。

~場末のキャバレーでサックスを吹くjazzman:矢代俊一と、「LEFT ALONE」を何度もリクエストする常連客であり筋金入りのヤクザ:滝川との不思議な関係からやがて友情とへと変わるが、2人は女性関係と縄張り争いによるヤクザ同士の抗争に巻き込まれていく~と云う内容。

「大学卒後就職もせず、なんとなくバンド活動をしていた頃に影響を受けた『JAZZ小説』を自分なりの感覚で書いておきたっかた...」と、あとがきにて作家本人は述べている。

当時、私は趣味でレコードのライナー・ノートを和訳していたことから「Nat Hentoff」を知り、
寺山修二の 影響から「Langston Hughes」の詩を詠んでいた理由からこの作品が違和感なく
自分の中に入ってき、また作家本人が「プレイヤーサイドとリスナーサイドの視点」で作品を
描いている点が他の作家のJAZZ小説と明らかに異なる様に思えます。

特にリスナーサイドの視点をヤクザ役:滝川の「台詞」に見受けられ、台詞の多くに
「わからない」と云う言葉が出てきており、また矢代俊一が奏でる音を「音楽のことば」とも使っています。
これらの台詞が意味するのは「曲のKeyや、楽器同士のハーモニー、フレーズの持つアウト感」等が想像され
一見プレイヤーサイドの視点で描かれている様に思われますが、楽典・和声の事を知らない立場で読者に説明しており、
更にヤクザ役:滝川のキャラクターをより明確に浮かび挙がらせている様にも思えます。

「作家」は作品の内容を(登場人物の心情、風景など)事細かく、作者の文体・リズム・視点で描いていきますが、
「音楽家」(作詞・作曲の場合は)作品の内容をあまり事細かく描かず、「ある程度」幅をもって描いていると思います。
何故なら「ある程度」部分は「楽曲・演奏が説明する」からであり、故に聞き手各々によっ てイメージが異なり、
曲の世界観が広がっていくのではないでしょうか。

作家本人が幼少よりピアノを習っており音楽への傾倒も強く、
作家の傍ら自身のグループでライブ活動を行っていたと云うのがこの作品から感じとられます。


5月26日
膵臓がんの為、56歳という若さでこの世を去った故 栗本薫さん。
「LEFT ALONE」を吹いていた矢代俊一/栗本薫さんから受け取ったものは、
確かに我々が受け取りまた他の人たちにバトンを渡せればと思います。

今回のこの文章と下記の曲を 故 栗本薫さんに捧げます。
同時に故人のご冥福をお祈り致します。

ALL TOO SOON (Duke Ellington) / MAL WALDRON・DAVID MARRAY (albam'SILENCE')



【参考資料】


・キャバレー /栗本薫 (ハルキ文庫)
・Fine Clothes to the Jew(晴着を質屋に)/Langston Hughes:著 斎藤忠則:訳
・(DVD)キャバレー (角川映画)
・(CD)SILENCE /MAL WALDRON・DAVID MARRAY (Justin time RECORDS /JUST186-2)