6/21/2009

ハスラー/ The Hustler


『 白も赤もみることはできなかった
この美しい緑ほどなまめかしいものは・・・ 』

アンドリュー・マーヴェル(Andrew Marvell)
形而上詩人

【 ビリヤードという競技 】
ポケット、キャロム、スヌーカー…、使用する台の種類や道具の違い、
国や地域、時代や世代、社会層によってもそれぞれ主流となるゲームは異なり、
一口にビリヤードと言ってもそのスタイルは多様だ。

ただ昨今の東京ではナインボールでさえ、
否、球撞場の存在自体がもはやマイナーなのだろうが…
・・・
【 ラシャに魅せられて 】
シカゴを舞台にしたポール・ニューマン主演の映画「ハスラー」(1961)。
最強のプレイヤーを目指す若き主人公の成長を描くビルドゥングスロマンである。
この作品ではビリヤードをプレイする場面が全編に渡って数多く出てくる。

中でも真夜中の決闘~すなわち疾風のエディことニューマンが
大物ミネソタ・ファッツなる強敵と闘う際には
「落とすボールとポケットを宣言してショットする」という
普段馴染みのない”ストレート・プール”での勝負を観ることが出来て興味深い。


【 ゲームの奥義 】
ゲームは一対一で争われるが、たて続けに何回も行われる為、
25時間を越える長丁場にまで及ぶ。

自身の力量の他に相手との相対的な力関係を把握することが大事なのだろう。
勝負に勝つにはささいな言動や行動にも目を光らせ相手を測りつつ、
精神・心理面での読み合いといった人間観察が必要とされる。

ショット時の乾いた音、球がポケットに落ちる時の残響音が目立つ程に、
大勝負と言えども静かに淡々と進行して行くのが印象的である。


【 深夜の闘技場 】
体の一部のように自在に動くキューさばきと、まるでダンサーのような身のこなし。
映画で映し出される真夜中の球撞場はさしずめ闘技場の様相で、
登場人物たちは剣の代わりにキューを手にした剣闘士にも思えてくる。
・・・
モノクロの映像が映し出す漆黒の世界、
その中でも表現されるビリヤード台のマホガニー材独特の艶や真鍮の光沢。
ケニヨン・ホプキンスによる控え目な音楽。
ストイックな映像の質感と相俟って十分に醸し出される
フィルム・ノワール的美学がまた美しい ─。

・・・
『 ハスラー/ The Hustler (1961/米) 』 134分 

勝負というものに徹し妥協を許さない姿勢。
あまりにも暗い代償と引き換えに得た、勝利の意味とは何だろうか…
映像詩学がもたらす苦い教訓に興味が尽きない。

監督・脚本 ロバート・ロッセン Robert Rossen 
撮影 ユージン・シャフタン Eugene Schuftan 
音楽 ケニヨン・ホプキンス Kenyon Hopkins  
原作 ウォルター・テヴィス Walter S. Tevis 
主演 ポール・ニューマン Paul Newman

参考資料
『ハスラー』 DVD 
『ハスラー』 真崎義博 訳 扶桑社 
『ポール・ニューマン』 エレナ・ウーマノ著/ 川口敦子 訳 近代映画社
『ザ・プロブック』 ボブ・ヘニング著/ 人見謙剛 訳 BABジャパン