7/19/2009

タンスと二人の男 / Two Men And A Wardrobe


今日ネット上では映像のMAD作品が溢れている。
多くは既製作品の海賊版・パロディとはいえ、
有名なホラー映画をコメディ風にしたりその逆の場合もあったりと、
場合によっては180度まったく別の印象になるのには驚かされる。
それらのオリジナルの印象を巧妙に変える手法。そこにはある特徴が見られる。

音による気分の差し替え──、とでも言おうか。
情緒における重要な役割を音やBGMが担っていることが解かる。
人は同一箇所から発せられる映像と音は同じモノだと感じてしまうようで、
心理的に同方向へと変化していくその相互作用は知覚の共鳴現象とも呼ばれ、
特に聴覚の方が視覚よりも優位にあるそうだ。

一般的なその傾向を踏まえて聴覚の印象で視覚の趣旨をリードすると
全体の雰囲気を操作出来るという・・・
つまりそういう訳らしい。

バルト海を見渡すヨーロッパ有数の避暑地。
海からタンスを担いだ二人の男が姿を現し街中を練り歩き、
レストラン・路面電車・ホテルなど方々で混乱を引き起しながら、
最後に再び海に帰っていく・・・

「 私は一般的な非寛容さや社会の中でありうる疎外を表現したかったんだ 」
Polanski



鬼才ポランスキーの無声映画の習作『 タンスと二人の男 』( 1958 )

この当て所もない僅か15分あまりのスラップスティック・コメディの短篇は、
映像に対してまったく対照的な音楽を重ねることによって
一見不条理でシュールだが意外な程メランコリックな印象を受ける作品に仕上がっている。
悲哀のこもったポーランド版の浦島太郎といった感じだ。



サウンドトラックを担当したのはクシシュトフ・コメダ(ピアニスト・作曲家)
後にポランスキーやアンジェイ・ワイダ監督作品等で
ポーランドを代表する映画音楽家として知られる。

第二次大戦後の共産主義政権下ポーランドでは
反抗的な若者の間でJAZZが熱狂的な人気を博したらしく、
コメダもまた偽名・変名を用いて当局からの追求を逃れ、
自身の楽団を率いてシーンを牽引してたようである。

映画製作当時はまだ演劇映画学校在学中の学生だったポランスキーに
本作品で国際映画祭での初めての受賞をもたらせたコメダの貢献は計り知れない。

中でも” コイサンカ / Kolysanka ”( ポーランド子守唄 )を
引用したといわれる”タンスと二人の男のテーマ”が持つこの素朴な響きは、
二十世紀の現代音楽の土台の上に彼の持つ東欧スラブ系・ポーランドの
民族音楽の伝統と聴感が反映されているとの評価が高い。

『 タンスと二人の男 / Two Men And A Wardrobe 』(1958 / Poland )
原題:Dwaj ludzie z szafa

監督 ロマン・ポランスキー Roman Polanski
音楽 クシシュトフ・コメダ Krzysztof Komeda

ブリュッセル国際実験映画コンペティション入賞

参考資料
『 ロマン・ポランスキー短篇全集 』 DVD
『 世界の映画作家 13 』 キネマ旬報
『 音のなんでも小事典 』 日本音響学会 講談社