3/28/2010

映画 『 卒業 / The Graduate 』


映画 『 卒業 / The Graduate 』

「 やあ暗闇君 皮肉な僕の古い友人よ また君と話す破目になるとはね…
ひとつの映像が僕にそっと忍び寄って 眠っている間に種を置いていったんだ
その種は僕の頭の中で芽を出して残像として いまだ生きつづけている
──沈黙の音とともに 」
~『 The Sound of Silence 』 Paul Simon~より拙訳

【 Dustin Hoffman 】

カリフォルニアを舞台に若者の葛藤やナイーヴな心情を描いた映画『卒業』。
'60~'70年代のアメリカン・ニュー・シネマの代表作といわれている。
結婚式の教会から男女が逃走するシーンは今も尚、語り継がれて有名だろう。
主人公演じるダスティン・ホフマンは当時まだ無名俳優だったらしいが
この時点で既に演技・芸風が完成されているように思えるから…恐るべき。

物語は冒頭──郊外の裕福な家庭で開催されるホーム・パーティーから
広いプール・サイドに集う招待客たち、誕生祝いの赤いアルファ・ロメオetc...
と何ひとつ不自由することのない主人公の暮らし振りが描かれて始まる。

登場する大人たちの人物像はあまりにも戯画的な描写で、特に過保護で甘過ぎる
両親とのちぐはぐなやりとりなどは、一見するとスタンダップ・コメディばりの
喜劇とも受け取れるかも知れない。が、そこはそれ、監督のマイク・ニコルズは
非常に台詞を大事にする舞台演出家として有名らしく、確かに会話の場面では
表向きのセリフとは裏腹に、複雑なニュアンスが織り込まれていると思う。

【 Paul Simon 】

そして映画『卒業』ではこのような物語の喜劇的な部分をダスティン・ホフマン
の演技が占める代わりに、シリアスな要素をサウンドトラックで補うようにして
構成されている。──あの澱みのないサイモン&ガーファンクルの滑らかな声、
ハーモニーがあえて意図された台詞なしの映像に合わせて流れる──

それは、ちょうど光と影のコントラストのようでもあり、ポール・サイモンの
思索的な歌詞がまるで主人公のモノローグ・独り言のように配されているのだ。
アメリカ社会の理想像に影を落とすコミュニケーションの欠如や不安、或いは
大人たちの態度に対して抱く若者の醒めた意識や疎外感といったもの全ては
音楽が語っている・・・と言って過言でもないだろう。

【 The Sound of Silence 】

「 不安でそわそわとした夢の中 僕は細長い石畳の道をひとり歩いていた
仄暗い光を発する街灯の真下に佇むと 冷やりとした湿気に思わず襟を立てた
その時 夜を引き裂くように ネオン管の閃光が僕の眼を撃ち抜いた
──沈黙の音に 僕は触れてしまった 」

~『 The Sound of Silence 』 Paul Simon~より拙訳


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1961年   JFK第35代合衆国大統領に就任    
1962年   ベトナム軍事顧問団増派、キューバ危機  
1963年    ポール・サイモン大学を卒業         
  ── 11月  テキサス州ダラスにて大統領暗殺     
  1964年2月  ”サウンド・オブ・サイレンス” 完成        
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【 and no one dare, 】

「 僕は白日の下に晒された世界を見た 何万人 いやそれ以上の人たち…
人々は互いに内容のない話をして 深く聴かず ただ聞かされてるだけだった
誰もが決して共感など出来ない歌を作り 勇気ある人はひとりもいなかった
──そう 沈黙の音を打ち破るような… 」
~『 The Sound of Silence 』 Paul Simon~より拙訳

定かではないが一説によると1963年11月──
"サウンド・オブ・サイレンス"の着想を得たといわれる・・・


by gkz


『 卒業 / The Graduate 1967/米』
監督 マイク・ニコルズ Mike Nichols
原作 チャールズ・ウェッブ Charles Webb
音楽 ポール・サイモン Paul Simon
   デイヴ・グルーシン Dave Grusin
出演 ダスティン・ホフマン Dustin Hoffman
   アン・バンクロフト Anne Bancroft
   キャサリン・ロス Katharine Ross