3/14/2010

" オリジナルの形態でない作品 "の価値とは?


珠には時事ネタを…ということで、
2日程前に配信されたニュースを取上げて見ようと思う。


【ロンドンのニュース】
一部のロックバンドは以前から、個々の楽曲ではなく、アルバム全体でのみ、自らの芸術性が表現できると主張しているが、
英高等法院は伝説的ロックバンドのピンク・フロイド(Pink Floyd)に対してその理想を実行する権利を与えた。

1曲ずつ売ることは契約違反と英高等法院が判断
英高等法院のアンドルー・モリット判事は11日、ピンク・フロイドが1999年にEMIと結んだ契約は、EMIがバンドの許可なくオリジナルの形態でない作品を販売することを禁じるものだとの判断を示した。この契約はデジタル音楽が誕生する前に締結された。消費者は、米アップルの「iTunes(アイチューンズ)」などの音楽配信サービスの誕生に伴い、ネット上でアルバム単位ではなく、曲単位で音楽を購入できるようになった。EMIは今週、法廷で、1999年の契約が実物のアルバム、つまりCDのみに適用され、ダウンロード販売には適用されないと主張していた。ピンク・フロイド側の弁護士はバンドが曲単位ではなく、アルバム単位でのみのオンライン販売を求めていると述べていた。AP通信によると、モリット判事はバンドの主張を支持し、EMIにバンドの同意なしにオンライン販売やその他のオリジナル以外の形態で作品を利用する権利はないと述べた。また同判事はEMIに対し、バンドの訴訟費用を負担するよう命じた。この結果が差し当たってピンク・フロイドのデジタル音楽販売にどのような影響をもたらすのかは不明だ。「狂気」や「ザ・ウォール」といった作品は長い間、アルバム単位でも曲単位でも販売されている。EMIは11日遅くに、「一部の報道とは違い、今日の判決はEMIによるピンク・フロイドの楽曲の曲単位での提供を中止させるものではない。そのためEMIはデジタルとそれ以外の形態によるピンク・フロイドの楽曲の販売を続ける」との声明を発表した。ピンク・フロイドの広報担当者は、「これは商売の問題ではなく、芸術の問題だ」と述べた。バンドはアルバムがアルバム単位でのみ販売されることを望んでいる、「裁判所は、アルバムを曲ごとに分割すべきでないとするわれわれの契約上の権利を支持した」と付け加えた。 (記者: Paul Sonne)



なるほど。ピンク・フロイドと云えばキング・クリムゾン、イエス、ジェネシス、
エマーソン・レイク&パーマー(EL&P)と並ぶプログレ5大バンドの雄であるが、
プログレのプログレたる所以の一つである《(トータル)コンセプト・アルバム》の概念である
「アルバム全体で一つの作品だから、トータルで聴いてね」と言うピンク・フロイド側の主張は
確かに頷けるものがある。EMI側の今後の出方に注目したい。


…という括りだけで終わっては些かつまらないので、個人的に思った事を書いてみようと思う。
例えば、彼らのベスト盤である「時空の舞踏("A Collection Of Great Dance Songs"
1981年発売)」や「エコーズ〜啓示("Echoes-The Best of Pink Floyd" 2001年発売)」
に関してはどうなのだろうか?コンセプト・アルバムからの選曲も含まれている。それから
ピンク・フロイドといえばヒプノシス (Hipgnosis)の手によるアルバム・ジャケットを
すぐに連想される方も多いかと思うが、果たして本来はそれらを含めての《コンセプト・
アルバム》なのではないだろうか?


また 自分は音楽配信サービスを利用した事のない古いタイプの人間だが、
1曲毎のダウンロードなぞ当たり前の事なのだろう20代前後のリスナーにとっては
少々戸惑うかも知れないな、などとと老婆心ながら思ったりもする。


クラシック界に目を転じてみるとオペラや交響曲、様々な組曲等をバンバンぶった切って
寄せ集めたコンピレーションアルバムが頻繁に発売されているが、もしも故・ワーグナー氏の
新しい遺言が発見されて「私の全作品はその芸術性を鑑み、全てオリジナルの形態でなければ
ならない」なんて文言が含まれていたとしたら、大変な事になるな…などと、
少々馬鹿げた妄想もふつふつと沸いてきたりもする。


個人的には、故・岡本太郎氏が生前云われていた「自分の作品は手元から離れたら誰に
どう扱われても全く気にしない(大意)」という意見に賛成したいが、どうだろうか。
曲を単体でダウンロードし慣れている前述の若い世代のリスナー達にとって、敷居が高い
のではないか、このタイプの音楽との出会いのチャンスを狭めてしまうんじゃないか…
と大きなお世話だが少々心配にも思う。


その一方で「ピンク・フロイド位の大御所バンドは敷居が高いのが醍醐味だ」とか
「やっぱりPファンクのアルバムはジャケット見ながら一枚を通して聴かなきゃね!」なんて
思ったりもする。何とも結論が出ない話で恐縮だが、このニュースが
昨今の音楽の消費形態を考える切欠になれば良いのかな、と思ったりもする。