4/18/2010

『 アメリカの影 / Shadows 』 ジョン・カサヴェテス


【 Beatnik 】

1950~60年代、若者の間ではビートニクが流行ってたのだろう。
洋の東西を問わずヨーロッパや日本、当時製作された多くの映画作品で
こんにち、それらしきものを散見することが出来る。
例えばこんなシーンだ──

モノクロにハードバップ風の音楽が流れる映像、
若者が深夜にあちこちとうろつき回る。
女の子を引っ掛けようしてはパーティーに顔を出す。
そしてケルアックの詩を諳んじてみては放浪の旅に憧れ、
カフェで仲間たちと実存主義が何たるかを議論する──

そこにあるのはお互いの孤独に基いた仲間意識だけで、
怒れる若者像のその内実はまったくもって若くて空虚で脆弱だ・・・
と、そんな描かれ方をしていると思う。

『アメリカの影』製作時のニューヨークもまたしかり、
似たような状況があったのだろう。
西48番街──、シャフィ・ハディによるサクソフォーンの即興演奏と
チャールズ・ミンガスのスコアによるサウンド・シークエンス。 
黒い服に身を包みサングラスをかけた若い男が歩き回って物語は始まるのだ。

【 Shadows /1959 】

ざっと簡単にあらすじを言うと──
ニューヨークのマンハッタンで暮らす黒人の三兄弟。
長男は黒人クラブ歌手として稼ぎながら弟と妹の生活の面倒を見ている。
彼らのアイデンティティは複雑で、弟と妹は白人に近い外見をしている。

弟はまだ若く未成熟で口先ばかりで実行が伴わず、度々、
長男と衝突しては不良仲間と夜の町を徘徊する毎日を送っている。
一方、妹は美人で明るくしっかり者で長男とは親子のような仲だ。

ある日、妹が友人に誘われたパーティーで白人青年と出会い恋に落ちる。
彼女は恋人を家に招き楽しく語らう…がそこへ巡業先から長男が帰ってくる。
そう。時代はまだ1950年代──兄の肌は黒い・・・

********

ただ、誤解して欲しくはないのだが・・・
本作品は人種問題に重きを置いた映画ではないのだ。
映画には実生活そのままに俳優たちは実名で登場し、
与えられた役柄も現実に準じたものになっているという。

俳優ワークショップでの役者同士の何気ないセッションから
たまたま人種を扱ったアイデアが生まれて、それが場面へと発展し、
最終的にカサヴェテス自身が映像化への着想を得て出来上がったのが
この『アメリカの影』なのだ。

それはつまり──、ここで描かれているのは
兄と弟、妹の終わりのない関係性の物語と呼ぶべきか…
一連のプロセスを観るように為されて作られている。

要するに肉親や家族の関係に本質的に結論が無いのと一緒で、
この映画においてもそれは同じだ。当たりまえだが、
誰も家庭に結果を求めようとはしないだろう・・・
確かに登場人物それぞれは問題を抱えてはいるが、
だからといって家族関係に終わりがあるわけじゃない。

だから『アメリカの影』はカサヴェテスの人間観察の正確さと
ちゃんと血の通ったヒューマニズムに満ちた──そんな映画だ。

【 John Cassavetes 】

ジョン・カサヴェテス──ニューヨークにギリシア移民の子として生まれる。
大学中退後、演劇学校を経てテレビの脇役など俳優としてキャリアを重ねる。
1958年、自身も運営に関っていた演劇ワークショップの仲間たちと
映画「アメリカの影」を製作。この時初めて監督をする事になる。

「 監督するってことは、僕にとってはフルタイムの趣味なんだ。
 いうなればアマチュア映画作家だ。僕はプロの役者で、
 お金を支払う為に数本の映画に出演したけど…
 
 僕は映画会社の既存のシステムから離れたときが一番いい働きをするよ。
 プロは仕事の報酬と仕事そのものに注意しなくちゃならないが、
 それに対してアマチュアは自分が成し遂げようとしていることだけに
 集中すればいい。だから妥協する必要がないと思う 」
~ John Cassavetes ~


【 Independent Films 】

低予算を逆手にオール・ロケーションで撮られた映像は日常生活をスケッチしており、
その即興的な演出とも相俟って映画史における革新的な作品であるとされる。
完成当時は限定的公開だったが、ヴェネチア映画祭で批評家賞を受賞するなど
ヨーロッパ各地で評価を得た後アメリカにて配給されたようだ。

以後、カサヴェテスは個性派俳優として多くの映画作品に出演する一方、
そこで得た資金を基に極めて作家性の高い11本の自主製作作品を撮り続けた。
後のインディペンデント作家──ウディ・アレン、マーチン・スコセッシ、
ジム・ジャームッシュ、スパイク・リーなどに与えた影響は大きいといわれる。

「 演技において即興とは監督としての僕の解釈じゃなく、
 役者自身の解釈をさせることで生まれる。
 つまり、監督の役割はレポーターみたいなものだ。
 だから役者がどんな演技をするか、僕には見当がつかない。
 
 僕にとって映画は重要じゃない。醜いものだろうが美しいものだろうが、
 人間の内なる欲求の力を信じてる。多分それが唯一の価値あるものなんだ。
 
 僕の映画では役者たちが一番重要なんだ… 彼らこそ表現の鏡だよ 」
~ John Cassavetes ~



by gkz


参考資料
『 アメリカの影 』 VHS 東北新社
『 カサヴェテスの映したアメリカ 』
レイモンド・カーニー 著 梅本洋一 訳 勁草書房
『 ジョン・カサヴェテスは語る 』
レイ・カーニー 編 遠山純生 都筑はじめ 訳 ビターズ・エンド/幻冬舎
『 マッケンドリックが教える映画の本当の作り方 』
アレクサンダー・マッケンドリック 著 吉田俊太郎 訳 フィルムアート社