8/15/2010

Interplay ~Ⅴ~ 楽器の変遷は時代と共に…




武蔵野音楽大学 楽器博物館

今回のInterplayで此処を訪ねる為、アナヨル一同は江古田に集まった。
この施設は教職員・学生の教育・研究のために創設されたのだという。
世界各地から収集された楽器類は5000点以上、江古田キャンパス内に
展示されている楽器だけでも、3000種類以上もあるという。

気温34度。なのに50%を下回らない湿度。小さな商店街を抜け「暑い、暑い」と
ボヤきながら、やっとのことで大学入り口に辿り着いた。夏期休暇中ということもあり
学内は静まり返っている。受付にて見学の旨を伝え、博物館員による案内が始まった。
校内同様、博物館の中も見学者の気配は無い。思ったよりゆっくり見て廻れそうだ…

いきなり訪ねても無料で見学出来るが、お勧めは書面による事前の「見学申し込み」だ。
これをしておくと博物館員によるレクチャー付きで館内を見て回ることが出来る。
それから、アナヨル一行にはもう一つの"お目当て"もあった(詳細は後述にて)。
(※見学申し込み詳細のについては、レビューの最後に記載します)

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ピアノ展示室にて
1階はピアノの展示室。クラヴィコードからチェンバロへ、やがてクリストフォリによる
ピアノフォルテの出現までの多用な変遷が 文字通り手に取るようにわかる。それらが
優に200台以上もあるだろうか、実際にそれらがずらりと居並ぶ様子は壮観だった。

冒頭の画像が何だか、お分かりになった方は居られるだろうか?実はこれはピアノの鍵盤だ。
建築家でもあった発明者の名を取って《ヤンコ・ピアノ(JANKO PIANO)》と言う。まるで
PCのキーボードの様な見た目は、ある種の美しさと滑稽さが共存しているようにも思えた。

他にも珍品と呼ぶべきピアノ、また名器とされるピアノが目を惹くが、如何せん数が多い。
脆く繊細な調度品のようなクラヴィコード。クララ・シューマンが使用したピアノ。
ナポレオンの婚礼の際にヴィクトリア女王が贈った、世界で唯一無二の絢爛たるピアノ…

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"ヴィオラ・ダモーレ Viola d'amore"
武蔵野音楽大学楽器博物館の資料第一号である。昭和28年、当時の福井直弘学長が
学生たちの研究資料にする為にドイツより持ち帰った。~楽器博物館パンフレットより~


ヴィオラ・ダモーレとは直訳すると《愛のヴィオラ》。目を惹くのは頭部の飾り部分に
彫られている目隠しをされた女性の姿だ。これは16~17世紀の欧州において
広く用いられた、アレゴリー(寓意)と呼ばれる装飾のひとつだ。

ヴィオラ・ダモーレの《目隠しをした女性》とはつまり、有名なラテン語の格言──
Amor caecus estの寓意だ。 いわゆる「愛は盲目」ということらしい。

ところがで… そんな《愛のヴィオラ》には趣を異にする可能性もあるらしい。
諸説あるが《ムーア人のヴィオラ》或いは《異教徒のヴィオラ》を意味するとの話もある。

異名の由来──それは楽器の構造に関係がある。ヴィオラ・ダモーレには全部で14本の
弦があるが、その内、実際に弾くのは前面7本だけで、残りの弦は共鳴用としてあるのだ。
要するに奥にも同数7本の弦がある。このような弦の張り方により和声奏法が可能で、
弓奏楽器としては異例の複雑な共振を伴ったエコーのような残響音を得る事が出来るという。
インドのシタールを見たことあるならば、より分かり易いかも知れない。

つまりこの設計にはインドの弦楽器の影響があると指摘されているのだ。真偽はともかく、
当時の欧州以外の別の風土や文化、辺境から来た技術が介在してるのは間違いないだろう。

悠久の時を越えて聴こえてくるのは…一体どんな音色なのだろうか?
気高くも盲目的な愛の音色か…異教の蛮勇の音色か。 それとも・・・?

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サックスの原点との出会い
…試しに尋ねてみると、事の他すぐに快諾を頂いた。
「吹いてみますか?」と館員が差し出す。それはすぐさま棚から下ろされ、当ブログ
3人衆の一人、DJの手に収まった。(基本的に女性からの誘いは断らない主義らしいw)

こうしてDJはアドルフ・サックス(Antoine-Joseph "Adolphe" Sax)が開発した
4つのサクソフォンの内、テナー・サクソフォンを試奏することとなった。


~サックス試奏による印象  byDJ~
・まず手に取った時、現行のテナー・サクソフォンとは重量感が異なり
非常に軽く感じられ(管の金属の厚さが薄く、2番管が細く思われた)、
ストラップが無いまま《とにかく落とさないように…》持ちながら思う。

・息を入れると抵抗感が強く感じられ、サブ・トーンのような音色が出た。
遠鳴りはせず、どちらかと言うと近鳴りしている様に思われる(整った音響
設備の部屋ではなく、資料室での感想として)。また確認はしなかったが
マウス・ピースは当時のものだろうか…?記憶ではリガチャー(リードと
マウスピースに装着する金具のもの、締金)は無かったように思う。また
紐らしきものでリードとマウスピースをグルグル巻きにしてあったので、
この辺りも抵抗感が強く感じられた要因と思われる。

・フィンガリングのポジションは現行のものと比べさほど変わらないが、
①オクターブ・キーは現行の物と違い、キーが2つ(左手のサムレストの
上と右サイド)オクターブ上の音域を出すキーと下の音域に戻るキーが
連動しておらず2つのキーに分離されていた(=結構面倒な印象)。

②キー自体の数が少なくHigh F#キーなどは付いておらず、また、右手の
小指で操作するキーにはローラーは付いておらず独立している(指を滑らせ
キーを操作するという感じでは無い)。また、左手小指で操作するテーブル
・キーもローラーがついておらず、個々に独立していた。

実用性は無く歴史的資料という感じは否めないのは、
現行の楽器に慣れてしまっているせいなのだろうか?
実用性、操作性の発展こそがこの楽器歴史なのであろう。



そう、前述の"我々のもう一つのお目当て"とは、サックス第一号の試奏だった。尚
資料室の展示順路が長方形の部屋を右回りに 木管(クラリネット、フルート)、
金管、部屋の真ん中にファゴットのコレクション、オーボエ、そして最後に
サクソフォンとなっていた点は非常に判りやすく丁寧な展示方法だと思う。

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埋もれていった楽器達の果てに…
人類が古くから楽器として利用していた《動物の角》。狩猟民族生活に於いて合図として
用いられたそれは、"戦いの為の道具"へと変化してゆく。やがて金属の加工技術の進歩と共に
素材は金属へ…その後も様々な紆余曲折を経、やがて現在のサックスへと至る迄の長い旅路は
『時代と共に消え忘れ去られ、埋もれていった楽器』の上に成り立っている・・・
有名無名の楽器職人達の、夏の暑さにも勝る、時代を超えた情熱を垣間見る思いがした。
(尚、詳細については後日改めて掲載の予定)

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楽器同士の力関係?
整然と展示されている楽器を見て回るうち、ふと楽器同士の《力学》めいたものを感じた。
展示順路、その保存状態、配られたリーフレット(無料)。どれもピアノがメイン扱いだ。
次いで管弦楽器、打楽器と続いてゆく。「ピアノは楽器の王様」と誰が言ったのかは
知らないが、現在に於いてもクラシック音楽界にとってはピアノ様々…なのだろうか?
その一方、民族楽器の王様は何と言っても打楽器がメインだ。 この差は一体…?

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館員によるレクチャー終了後、閉館時刻まで1時間半程の余裕を持ったつもりだったが
一同で館員の方を質問攻めにしてしまったせいか(館員の方、すみませんでした)、
すぐに閉館時刻となってしまった。恐ろしいまでの数の有名・無名の楽器を一気に見て
回ったためだろうか、チーム・アナヨルの頭の中は「お腹いっぱい」状態だった。

────最後にチラリと学内を通ったが、校内にいる学生はほんの僅かだった。ただ、
姿こそ見えないものの、校舎のそこかしこから様々な楽器を練習する音だけが谺していた。 

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帰りに池袋駅西口で行われていた盆踊りをチラリ覗いてみた。夜になっても
一向に気温は下がらず…それでも老若男女問わず皆、楽しげに踊っている。
…やはり、民族楽器の王様は太鼓だ。鼓手が中央で、誇らしげに叩いていた。

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歴史から消えていった楽器。残された者達が集い踊る 盆踊り。
盆踊りは亡者を供養するという目的がルーツだとも云われている。

終戦記念日直前に行った今回のInterplay。
何の規制も無く自由に表現・思考する事が出来る我々。一方、
65年目にして原爆犠牲者慰霊平和祈念式典に初来場した米関係者。

残された物・者は過去に学び、未来を想像し、行動し続ける。
それが発展・進化の一歩であるとふと感じる、真夏の宵だった。


text by DJ with gkz,電気羊  
illustration by gkz  
edit by 電気羊
special thanks Kiri


※ 武蔵野音楽大学/楽器博物館 見学申し込み詳細について
博物館員(音大卒業生)による1時間~1時間半程度の案内を無料で受けられる。
大学に電話で「案内付きで博物館を見学したい」と申し出、見学予定日時・代表者
の氏名・住所を言うと2、3日中に「見学申し込み用紙」が郵送にて送付される。
所定の内容(見学目的・団体名等を書く欄がある)を書き、折り返し送付する。