8/22/2010

映画 『 真夏の夜のジャズ / Jazz on a Summer's Day 』 no.1


【 High Society 】

1956年のMGM映画に 『 上流社会 』 という作品がある。アメリカの東部に位置する
ロードアイランド州のニューポートを舞台に──そのタイトル名の通りハイソサエティな
社交界の人間模様とジャズ・フェスティバルの興奮を組み合わせたミュージカルだ。

出演には二人の大物、ビング・クロスビーとフランク・シナトラを起用。また、本人役で
ルイ・アームストロング。ヒロインには后妃になる直前のグレース・ケリー。そして音楽
担当はコール・ポーター・・・と何とも豪華なビッグネームの面々が揃っている。

社交界とフェスティバル。この題材の直接のきっかけとなったのは勿論、言うまでもなく、
1954年に始まったあのニューポート・ジャズ・フェスティバルのことである。

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" 真夏の夜のジャズ / Jazz on a Summer's Day (1960) "

【 Newport Jazz Festival 】

ニューポートは当時の人口で一万人ほどの小さな町だったそうだ。だが、鉄道王・炭鉱王・
煙草王など富豪の大邸宅や別荘が競うように立ち並び、さらにはテニスやゴルフの名門
クラブが軒を連ねる。そのような全米屈指の保養地・避暑地として名高い場所だ。

他にも、ハーバーにはクルーザーやヨット、2艇のマッチレースで争われるヨットレース
の最高峰”アメリカスカップ”の大会も開かれていた。日本のイメージで言えば軽井沢・
葉山・芦屋か…。いずれにせよ、とにかく”格”が違うということだけは理解出来る。

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そんな上流階級のお歴々が集うのがニューポートの社交界。パーティーにはやはり余興が
付き物だろう。ジャズ・フェスティバルの開催以前──ニューポートではクラシック音楽の
野外イヴェントが行われた事があると言う。ただ、これは不成功に終わったようだ。

普段ニューヨーク辺りで観慣れているから新鮮味が無いし、相応し過ぎで面白味に欠ける
としてあまり話題にならなかったと聞く。それに室内音楽仕様の生楽器では屋外において
は音量が足りないのは必然だ。まさかアンプリファイヤ(増幅)する訳にもいかないだろうし、。


~ Anita O'Day - Jazz On A Summer's Day ~

【 Elaine Lorillard 】

そんなニューポートの住人にイレーン・ロリラードというひとりの女性がいた。夫は煙草王
として有名な億万長者ロリラード家の子孫である。”クラシック音楽の替わりにジャズの
野外イヴェントを──”と言い出したのは彼女である。発案者ということだ。

若い頃のイレーンはニューヨークでイラストレイターやピアノ弾きの仕事をしていた。
やがてジャズに出会うと熱心にナイトクラブ通う程になり、そして第二次世界大戦中には
赤十字としてイタリアへ従軍し、余暇にはGIたちとジャム・セッションしてたという。

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彼女はもともとニューポートの人間ではないらしいから、上流階級の慣例・・・と言うか
身分相応の教養としてのヨーロッパ音楽から逸脱する気楽さもあったのだろうか?彼女の
発言は話題になり、新しい物好きな好奇心も手伝って社交界の人々は話に乗った。

なにせお金は余りある位だ…。ともかく刺激あるパーティーを求めてジャズ・フェスティバル
は産声を上げたのだ。ただし、当時のニューポートの上流社会の人々──
名士の彼らといえどもジャズが何たるかをほとんど知らなかったという・・・