8/22/2010

映画 『 真夏の夜のジャズ / Jazz on a Summer's Day 』 no.2


~ Interlude - Jazz On A Summer's Day ~

【 Revival - Jazz on a Summer's Day 】

この辺で少し映画の話をしようと思う──、
1958年の第五回目のイベント模様をドキュメンタリー・タッチで映画化した『 真夏の夜のジャズ』。
ジミー・ジェフリー・スリーの軽やかな演奏に始まりマヘリア・ジャクソンの重厚なゴスペルに至るまで、
本来は四日間のステージを編集して夏の一日 ─── 日曜日の出来事としてまとめられている。

日本でも1960年に公開されて人気を博し、本場のジャズ生演奏が見られる機会として、当時多くの
音楽関係者にも影響を与えたと云われている。そしてこれ以降、本格的なライブ公演の機運が高まり、
翌年のアート・ブレイキー初来日などミュージシャンの来日ラッシュが始まったそうだ。

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この映画は古典的名作とされ、過去に何度もリバイバル上映されている。
その度毎に何十回も観たと豪語する往年のファンや新たな若い客層を
巻き込んで、その息の長い人気は今日まで続いていると言えるのだろう。

僕も何年か前に確か六本木だか何処かにまで観に行ったことがある。
驚いたことにレイトショーにも関わらず場内は立見が出るほど満席で、
仕方なく通路の床に座って観た記憶がある。客層の年齢も高かったと思う…。

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どうして映画『 真夏の夜のジャズ 』は時代を経ても尚、人々に好まれるのだろう・・・

成るほど、そもそもの映画題材──フェスティバル自体の主役はあくまでも音楽そのものだ。
この映画に出演しているミュージシャンたちも超一流であって、あれこれ論じる必要は無いだろう。
アニタ・オデイ、チコ・ハミルトン、ルイ・アームストロング、セロニアス・モンク、etc…
その素晴しい音楽の魅力は、きっと人の世が続く限り色褪せたりはしない。

が、しかし。ここに大事な要素がもうひとつある。白熱のライブ演奏に対してモンタージュされる
”観客”とニューポートの”風景”。ここが多分、肝心なポイントなのである…。


~ Mahalia Jackson - Jazz On A Summer's Day ~

【 Documentary film for music lovers 】

映画『 真夏の夜のジャズ』はステージ上で繰り広げられる演奏をBGM代わりにして、
まず、カメラのフォーカスがそれを見守る観客の表情をこと細かく捉えて画面に映し出す──
どの観客の顔には楽しげな表情が浮かんでいて、十分にリラックスした感じが窺える。
楽しみながらも優雅さを決して崩さない人々の佇まい、そこには余裕が感じられる。

それからカメラは移動して閑静な避暑地の景色、上品な街並の中へと我々を案内してくれる。
浜辺で水遊びを楽しむ親子の姿だとか、大きな邸宅の緑の芝の上を裸足で歩き回る
子供の映像も柔らかくて心地よい…解放的な夏の雰囲気だといえよう。

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この挿入される映像の比率は、ざっと僕の主観にして”ステージ”に対する”観客&風景”が6:4
くらいか…、或いはそれ以上かもしれない。とても割合が多いのだ。皮肉にもこれらは撮影トラブル
というか偶然の結果であって、バート・スターン監督が映画に不慣れだったおかげだと思う。

なんでも初日の撮影は未経験なのが災いして見るも無残な結果に終わったらしい。(この1958年の
第五回目のニューポート・ジャズ・フェスティバル──初日にはマイルス・デイビスやデューク・エリントン
も出演していた筈だが、今日まで何故?彼らの映像が公にされないのかと僕はずっと不思議に思っていた
が・・・)二日目からはコロンビアレコードの音楽ディレクター──ジョージ・アヴァキアンの弟である
アラム・A・アヴァキアンに全権が委ねられて無事に撮影が行われたそうだ。

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そもそも監督のバート・スターンは元々は広告業界で働いていた写真家であり、モデルを使った人物・
スチール写真を得意にしていた。あのモンローの" The Last Sitting "撮影で有名な人だ。
聞くところによると実際、彼は、ジャズにも映画撮影にも疎かったと云われている。

冒頭に書いた、『 上流社会 』の二番煎じではないが…当初、バート・スターンの構想では
『 真夏の夜のジャズ 』はニューポートを舞台にしたラブストーリーを考えていたというから驚きだ。


【 Visionary utopia 】

頭上には透き通った空があり、見渡せば青く澄んだ海がどこまでも広がる──
遠くには滑らかに帆走する12m級のヨットの白い船体が見える。
ディキシーの名曲を吹く音が聴こえてくる。ステージ上での進行とシンクロしながら、
やがてゆっくりと日が傾く内に辺りは薄暮に染まり、神々しい歌声と共に深く闇に包まれる・・・

安息であり理想郷──つまり『 真夏の夜のジャズ 』という映画は豊かさへの憧れを誘い、
夏の休日”vacances”はかくあるべしといったある意味での幻想を抱かせるのだ。
現代社会ではとうの昔に散った…フィルムの中にだけ許される夢なのかも知れない──。


by gkz


参照資料
『 真夏の夜のジャズ / Jazz On A Summers Day 』 DVD Sony Pictures
『 真夏の夜のジャズ / Jazz On A Summers Day 』 CD Victor
『 上流社会 / High Society 』  DVD MGM / Warner Bros
『 ニューポート・ジャズ・フェスティバルはこうして始まった ~ 1953-1960年の記録と、
ジャズレディ、イレーン・ロリラードの横顔 ~ 』 酒井 真知江 著  講談社
『 ジャズ100年史 / A century of jazz 』  ロイ・カー 著 
広瀬真之 訳 バーン・コーポレーション シンコーミュージック