9/26/2010

~Interlude ~ 色川武大 原作 『 明日泣く / I'll Cry Tomorrow 』



” 映画 『 明日泣く 』 ”

監督 内藤誠
原作 色川武大
音楽 渋谷毅

” 泣きを見る人生なんて、イヤ。男も音楽も好きなように、
好きなだけ渡り歩く人生を貫いて見せた女と、書けない小説家の男。
そんな二人が再会して始まる、ジャズ・ラブストーリー。 ”

~制作会社 HPより 2011年春公開予定~



【 Takehiro Irokawa 】
” 当て振り ”という言葉がある。

楽器を弾いてる素振りのこと ── 逆の見方をすれば、演奏の吹き替えと言ったら良いのだろうか …
例えば、映画で俳優がミュージシャンを演ずるとしよう。演出の上でどうしても演奏シーンが
必要な場合、これは実際には別の人が弾く。プロの役者とはいえ専門外なのだから当然のことだろう。
それにプロ・ミュージシャン並みの演奏などそもそも無理な話だ。

ピアノを例に挙げると、具体的に性別・年齢の近い人、手の大きさ、型、皮膚の色や皺の感じが
似た人が吹き替えを担当するらしい。状況によっては、あらかじめ音の出ないように細工した
ピアノを用意するとも聞く。まず役者の表情と手の動きを撮り、それから後で音を重ねるという寸法だ。

::

その当て振り ──
前回の拙レビューで映画 『 愛の調べ / Song of Love 』 (1947)を取り上げた。その際、
改めて観直したりしたのだが・・・つくづく演技と音楽の見事な出来栄えに驚いたものだ。
演奏を担当したルービンシュタインの音楽は紛れも無く本物であり、また、当て振りをする
女優の弾きっぷりも素人目には本物の様に思えた。その演技には風格さえ感じられる程だったのだ。

前置きが長くなってしまった。
その、日本ジャズ界の至宝と呼ばれる方が居る。日本アカデミー賞の最優秀音楽賞した
作曲家であり、現役ジャズピアニストでもある。その人がたまたま映画の当て振りを
しているという話を、偶然に耳にして不躾にも御本人に聞いたことがあるのだ。

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【 short novel " I'll Cry Tomorrow " 】
※ 記憶を元に書いたので、以下、事実と異なる場合が大いにあります。
あくまでも僕のフィクションだと思って読んでください。


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【 Shibuya Takeshi 】

「 難しいんだよね。俳優が少しはピアノ弾ければ良いんだけど。 
演奏を撮っといて、格好なんか似せていかないといけない 」。

── 映像より音が先なんですか?
「 音が先。 ピアノ弾けない人の映像に合わせては、
ピアノ弾けないじゃない? まあ、逆も難しいんだけど。
音楽を撮るときにその指のところをこう、指の動きだけは撮って 」。

── 成る程、そうですよね。
「 他に方法ないじゃない? その人がピアノ弾けるようになるまで、
十何年掛かっちゃう訳じゃないですか?もしちゃんとやるとしたら。 
分かんないけれど。十何年掛かっても出来ないかも分かんないしさ。
話が、10代の頃から、ずうっと30代ぐらいまである訳だから・・・ 」。

── 確か、色川武大さんの原作の …
「 うん。そうそう。 そんなにね、なんか、だから編集技術かな、   
これから先は。まだ撮影してるから、監督が上手く編集出来るか・・・ 」。

── そういえば、昔キャサリン・ヘプバーンが
クララ・シューマンの役をやった映画が … 
「 あのね。アメリカ映画なんかを例に出しちゃいけない。 
向こうのやり方はもっと徹底してるから   」。   

── すごい合ってるんですよ。
「 もちろん。俳優がそのまま弾いてるんじゃないかと思うくらいでしょ?
 日本はそんなこと出来ないですよ。 お金もないし (笑)  」。 
~ 西荻窪 アケタの店にて ~ 



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