10/03/2010

虹のプレリュード



何か作業しながら「音楽を聴く」こんな習慣がある人もいるであろう。
残念ながら筆者にはその様な習慣がないのでよく解らないが、
音楽によって気分を高揚させ効率良く作業を進める、と言ったところであろうか?

「Work Song」黒人音楽の1つのこれはプランテーションにおける単純・重労働より気を紛らわす為、また仲間同士の位置確認・作業の進捗状況・その他世間話に単純な節を付け仲間同士でやり取りする(コール・アンド・レスポンス)ところから発展した音楽もやはり作業効率を促進させる所に重点が置かれている。
また、スーパー等のタイムセール時には必ずと言って良いほど「T-SQUARE / TRUTH」が流れているのも、その楽曲が持つ何か期待感・高揚感によって消費者の気分を高揚させ販売促進を促しているのであろうか?
(T-SQUAREファンの方ごめんなさい:涙)



豊島区にあるアパート「並木ハウス」に仕事場ある彼の部屋にもターンテーブルがあり、ターンテーブルの上にはクラッシクや映画音楽のレコードがあり1日に同じ曲が何度もかけられていた。
仕事場が変わっても彼の部屋には必ずターンテーブルがあり音楽が流れていたが、しかしその音楽を聴いているのは仕事中の彼だけではなく、彼の原稿をイライラしながら待つ複数の出版社の人間だった。
彼の名前は『手塚 治虫』。



彼の作品には音楽よってインスパイアされた作品が数多く存在し、彼のライフワークであり代表作品の【火の鳥】は言うまでもなくストラビンスキーの「火の鳥」からインスパイアされた話はあまりにも有名だ。

ショパンの練習曲10-12(第12番)をモチーフとし、ロシア軍のポーランド侵攻・陥落下の音楽家を描いた【虹のプレリュード】。ラストのフレデリックがポーランド陥落の知らせを聞き祖国の為に作曲した、革命のエチュードのページは一切のセリフを削除し、見開きページを大胆に使いモチーフであるショパンの曲想を絵よって表現している部分は圧巻である。
また、主人公のルネは女性でありながら男装をしている(リボンの騎士もそうであった)点などは強権的な父親への希薄さ、しいては戦時中・戦後に幼少期を過ごした体験とも受け取れる。





他にも【ブラック・ジャック】では楽曲そのものをテーマにせず楽器等に焦点をあて、彼の専攻であった医学を舞台装置としテーマである生命の尊厳を問い、【アドルフに告ぐ】に至っては3人のアドルフを中心に細かい人物設定により物語が進めらる点などはオペラさながらである。
そして彼の未完遺作【ルードウィヒ・B】は本人が好きであった音楽家であり本人と似ていると言う:ルートヴィヒ・ヴァン・ベートーヴェンを主人公にした作品。先に挙げた【虹のプレリュード】と同じように音楽家を描きながらも音楽を視覚的表現の限界に挑んだ作品でもあり、また登場人物の視点を借り多次元的に物語が進んで行く辺りは大変読みごたえある作品だった故に、絶筆されたのは非常に残念である。


この様に手塚治虫と音楽との接点を本人作品ごとに楽曲と検証し、クラッシック音楽に興味を持ち理解を深め演奏会などに足を運ぶ、と言うのも楽しいかもしれません。
最後に彼が音楽にアイデアを求めた他に、レコードを大音量に流し原稿待ちしている出版社の人達に見つからないようにこっそり現場から抜け出していたとか…

実はこんなことにも音楽の力を借りていたなんて云う話も有るとか無いとか???





【参考資料】
・火の鳥 (角川書店)
・虹のプレリュード (講談社)
・ブラック・ジャック (秋田書店)
・アドルフに告ぐ (講談社)
・ルードウィヒ・B (講談社)