9/05/2010

神降ろしの笛 (裏interplay Ⅱ)



interplay、interludeに続きまた、「武蔵野音楽大学 楽器博物館」の話を。
「暑いから他のネタが思いつかないのでは?」と思うでしょうが、
いやいや、ここでの見学の話はつきないです。ホント(汗)


ピアノ、管弦楽器のフロアの見学を経て「ヨーロッパ各地の珍しい楽器」のフロアへと進んだ。ワイン・グラスが箱の中に並んだ楽器【グラス・ハーモニカ】の説明を受ける。

楽器そのものには触れられないが代わりに「大小2つのワイングラス」と「水が入った容器」が置いてある。「水で指を濡らし、指でグラスの縁をなぞる様にすると摩擦によって音が出ます」と博物館員。

各自指を濡らし音を出してみると~ワイングラスの持つ独特の響き、緩やかに音が立ち上がり(attack)、とても柔らかい倍音が「香り」の様に広がってゆく…
なんとも言えない音色。パガニーニは「何たる天上的な声色」と言ったのも解る気がする。

【グラス・ハーモニカ】は体鳴楽器・擦奏体鳴楽器の分類で、グラスが静止状態の物(ミュージカル・グラシズ)とグラスが回転する(グラス・ハーモニカ)の2タイプある。厳密に言うと今回見学したものは「ミュージカル・グラシズ」の分類に属するものと思慮。そして、この楽器を発明したのはベンジャミン・フランクリン(※凧あげの人です)である。


なんとも言えない優しい音色を楽しんでいた我々に博物館員の女性は一言、
「実はこの楽器、一時期演奏が禁止された時代があったそうです…」




幼少の頃、こんな事を言われたことがないだろか?
「夜、笛を吹くと天井からヘビが出てくるのから、もう笛を吹くのを止めなさい」と。

人の可聴領域音は15、16Hz~12,000HZz(12キロHz)で、音波振動は鼓膜から槌骨
(つちこつ)・砧骨(きぬたこつ)・鐙骨(あぶみこつ)を経て「蝸牛(かぎゅう)殻」の
毛細胞が敷き詰められている蝸牛管に伝達される。その毛細胞が音波振動の刺激を受け
聴覚神経通じて脳の聴覚中枢に伝わり人は音の高さを知覚する。

人はこの可聴領域外の音は耳では聞こえないが、しかし、身体で感じる事が出来るのは
上記の聴覚神経路とは「別な神経路を経て」伝わった音波振動を脳が感知するからだそうです。



日本最古(縄文時代)の楽器の中に【石笛(いわぶえ)】と云うものが出土されている。石笛とは人工的に「孔」を開けたものや貝類等によって孔が開いた石を下唇に当て、息を吹き降ろすことにより音が出る。(フルートなどのエアリードに近い楽器と思われる)

神社ではこの石笛を使用し「神降ろし」の儀式を行っており、この笛が発する「高周波の音に危険性」を感じて使用の際に数々の決め事・作法が実在し、それらをクリアした者だけにその使用が認められる。


その中の1つに石笛には「日没後は吹いてはならない」と戒めある。夜、石笛を吹くと「神霊」ではなく「悪霊」が集まってくるからだそうだ。視点を変えて考えるとこの時間帯は、外界からの刺激が減少したり、交感神経から副交感神経へと切り替わり体温が低下する時間だ。この笛の持つ高周波の音に身体をさらす危険性を言いたかったのであろう。

上段に記した「ヘビが出る」というのは恐らく、このような伝承が地域によって変化し受け継がれたものであろう。また、石の「色」によっても決め事があるそうで、これは高周波の周波数帯による心理的影響の違いについて警告したものであろう。


グラス・ハーモニカについては演奏者や愛好家から精神的変調・体調不良を訴える人々が続出し、嘘か本当か判らない話・噂が広がった。そして「天使の歌声を持つ楽器」と言われた楽器が、「悪魔の楽器」と呼ばれて19世紀初頭には急速に衰退していった。

現在に至ってもその理由は判明されていないとか。しかし、現代ではガラス職人などの努力により空白の時間を経て復活し、演奏会やグラス・ハーモニカの為の楽曲なども作られている。


時代に埋もれていった楽器。
本当に土の中に埋もれていた楽器。
どちらの楽器もその時代にその音色が人々の心を捉えたことは、
時代を超え現在でも理解出来るであろう。






【参考資料】
・埋もれた楽器~音楽考古学の現場から~ / 笠原潔:著 (春秋社)
・カラー図解 楽器の歴史 / 佐伯茂樹:著 (河出書房新社)