10/17/2010

”身体に幽閉された男たち───”
映画と漫画に見る ノワルティエ・ドゥ・ヴィルフォール氏の幻影



【 Monsieur Noirtier de Villefort 】

” そこには、かつてこの人の肉体と精神のなかに充満していたあらゆる活動力、
あらゆる巧智、あらゆる力、あらゆる智力が集中されていた。なるほど、もはや
腕を動かすこともできなくなっていた。 だが、この力づよい眼ざしこそは、 
それらにじゅうぶんとってかわっているものだった。老人は、なにか命ずるにしても、
礼をいうにしても、 すべてこの眼によってやった。 まさに、 
生きた眼をもつ死骸とでもいうようだった。 ”

Alexandre Dumas / Le Comte de Monte - Cristo
~ アレクサンドル・デュマ 作 『 モンテ・クリスト伯 ( 1844 ) 』 山内義雄 訳 より ~



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” 潜水服は蝶の夢を見る / Le Scaphandre et le Papillon ( 2007 ) ”【 Locked-in syndrome 】

” 鋭い目をした生ける屍、すでに棺桶に片足を突っ込んでいる男。重度の身体障害者
として、デュマに描かれたこの男が引き起こすのは、憧れではなく、戦慄だ。最も重大な
秘密を握っているが、口がきけず、まるで無力で、小さなキャスターつきの椅子に乗って
打ちひしがれた日々を送り、何かを伝える時は、まばたきだけがことばのかわりだ。一度の
まばたきなら「はい」、二度なら「いいえ」。だが孫娘からは、愛情をこめて「お祖父さま」
と呼ばれている。彼こそ、文学の中に登場した最初の、そしてこれまでのところ唯一の、
ロックトイン・シンドローム患者ではあるまいか 。

僕は、倒れた時に迷い込んだ深い霧から戻ってきて以来、この「お祖父」さまのことをよく考える。
なにしろ、 『 モンテ・クリスト伯 』 をちょうど読み直したばかりだったのだ。 そうして気づいて
みると、自分はその本の世界のただ中に、しかも最悪の状態で、来てしまっていた 。 ”

Jean-Dominique Bauby / Le Scaphandre et le Papillon ( The Diving Bell and the Butterfly )
~ ジャン=ドミニク・ボービー 原作 『 潜水服は蝶の夢を見る ( 1997 ) 』 河野 万里子 訳 より ~



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” ジョニーは戦場へ行った / Johnny got his gun ( 1971 ) ”
【 Morse code 】

” 彼はいま、おれのたたき方にはちゃんと原則があるんだ、ということを示そうとして、
注意をはらい、ゆっくりとたたいている。看護婦がMの字を彼の胸に何度も何度も書いて
くれたと同じように、彼はいま危険信号を彼女へ送りかえしている、だがゆっくりとだ……
まったくおそいたたき方で。 トン・トン・トン トーン・トーン・トーン トン・トン・トン。
SOS。HELP。彼はそれを何度もくり返した。信号を送り終えるとしばらく休む。看護婦が
疑問符の区切れをつけたように、彼もまた疑問符をつけたのだった。 彼は動きをやめて、
彼にそなわったすべて── 髪、マスクの上にある半分の額── をつかって待ち受けた。

Dalton Trumbo / Johnny Got His Gun
~ ドルトン・トランボ 原作 『 ジョニーは戦場へ行った ( 1939 ) 』 信太 英男 訳 より ~



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” BLACK JACK : 信号 / The Language Of Breath ( 1977 ) ”
【 11 と 5 】

手塚医師
「 な…… おかしな呼吸だろ 」

ブラック・ジャック
「 たしかに はく時だけ異常だ 」

手塚医師
「 しかし アンクスト/苦痛 はないみたいだぜ 」

・・・ 中略 ・・・

手塚医師
「 よく見ると一回の呼気がまん中で中断するんだ……
そして前半と後半がそれぞれ こきざみにわかれる 」

ブラック・ジャック
「 あの患者はいっさいの随意運動が止まっていて
自由になるのは呼吸だけ とするとこの奇妙な呼吸は
 もしかして 患者の信号じゃないか? 」

手塚医師
「 じょうだんじゃない 患者は理性のかけらも意識も
ないんだぜ そんな信号なんか送れる状態だと思うかい? 」

ブラック・ジャック
「 しかし げんに彼は生きてるんだ 
だから可能性はないとはいえん!! 」


Osamu Tezuka / The Language Of Breath
~ 手塚治虫 『 ブラック・ジャック / 第176話 』 より ~



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by gkz