11/21/2010

~ Interplay Ⅶ ~ 無響室 その3


《 for maria anechoic room version 》
渋谷慶一郎+evala


無響室という音の反響を吸収する特殊な空間に設置された24.4チャンネル
のサウンド・システム( 1周8個×3層からなる24のスピーカーと部屋の四隅に
設置したサブ・ウーハーによって構成 )は、コンピュータ・プログラムによって完全に
制御され、ストロボ・ライトの高速の明滅と共に音と光の充満する空間を構成する。
ICC ONLINE 公式ホームページより ~

東京オペラシティタワー / オープン・スペース
展示期間:2010年10月5日(火)―2011年2月27日(日)


さて、今回のInterplayについてはGKZ&DJ両氏によるレビューにより詳しく書かれているので
さして書く事も無いのだが、補足と言うよりは独りよがりな感想を手短に書いてみようと思う。

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以前、音楽学の講義の最中に無響室の話になった事がある。その教授曰く…

「よく小説やマンガ等で静寂を表す擬態語で『シ~~~ン』と表す事が
あるけれど、僕は常々アレを不思議に思っていたんだ。静かな様子を音
を使って表すのか、と。しかし或る日無響室に入る機会があり、納得し
た。無響室に入って暫く経つと本当に『シ~~~ン』という”音”が聴
こえてきたよ。君達も無響室に入る機会があれば体験出来ると思う」


その話は妙に印象深く思ったが年月を経るに従っていつの間にかすっかり忘れていた。
が、今回のInterplayで無響室に行く事になった時、脳裏にこの話が浮かんだ。
本当にいつか聞いた例の『シ~~~ン』を体験出来るのだろうか。。

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よく「都会の喧騒を離れ、静かな郊外の…」という表現を見聞きするが、元々それは
当てはまらないんじゃないかな、と思っていた。都会にずっと住み続けている者に
とっては海辺の宿では波が磯を洗う音が、山の中の宿では木々を揺らし通り抜ける
風の音が耳について全く眠れなかった事があるからだ。今回訪れた無響室の場所は
西新宿。本当の静寂が都会のど真ん中にあるという事に面白味を感じた。



その部屋は想像以上にずっと狭く感じられた。ガイドの方に「3分経ったら自動で扉が
開きます。それまで待てない場合、又は途中で耐えられなくなったら部屋の中央にある
このボタンを押して下さい。すぐに係の者が参ります」と言われ、一瞬ドキリとしたが
すぐに好奇心の方が勝り、一人部屋に残った。

ドアが音も無く閉じる。細微な電気ノイズをも遮断する為か照明も落とされ、文字通り
目の前の自分の手すら見えない真っ暗な状況になった。と途端に感じたのは圧倒的な
「社会との途絶感」だった。聴覚と視覚、五感の内の高々2つが無くなった位で何を
大袈裟な、と思われるかも知れないけれど、その2つがいきなり消え失せる衝撃は
想像以上の体験だった。その2つが欠損した状態に置かれたことは初めてだった。

無響室を訪れた日は企画をやっていて、無響室自体を堪能したと言うよりは
《for maria anechoic room version》という「無響室の為の曲」を否応無く
聞いた訳だが、結果として印象に残ったのはやはり曲の前後の僅かな間の
「無響状態」(厳密には室内に置かれた大小の無数のスピーカーの電気ノイズ
の音が聴こえたので言わば「擬似無響状態」だが)だった様に思う。

冒頭に書いた「シ~~~ン」の真偽についてだが、無響状態そのものの時間が
余りにも短かった為に残念ながら感じることは出来なかった。何時の日にかまた、
今度は純然たる無響状態を体験しに行ってみたいと思っている。



無響室を出、東京オペラシティを出ると夕闇が迫る時刻となっていた。
絶え間無い車の往来の音、無数の人々が営む生活音が一気に戻ってくる。
それらの騒音や喧騒は、何時にも増して心地良く感じられた。


by 電気羊



※ 関連エントリー~ Interplay Ⅶ ~無響室
その2
その4