───────── 一時の静寂 ──────────
やがて、第一ヴァイオリンが奏でるaの音がpppで聞こえ始め、
それに引き寄せられるかのように管楽器が幽かに呼応する…
Gustav Mahler Symphonie Nr.1 "Der Titan"
マーラーの交響曲『巨人』。中々の演奏だ。
貴方はジャケットを手に取り、クレジットを確認する。
指揮:Vladimir Petroshoff
演奏:Philharmonie Festival Orchestra |
" ・・・? "
その見慣れぬクレジットに貴方は首を傾げ、
経歴を調べ始めるかも知れない。しかし、いくら調べても
件の指揮者とオケに関する情報は得られないだろう。
何故なら、彼らは
この世に実在しない" 幽霊 "なのだ…
"幽霊指揮者(Phantom Conductor)"
"幽霊オーケストラ(Phantom Orchestra)"
幽霊指揮者 一覧
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如何にも彼の地に有りそうな感じの名前や団体名…しかし上記の人物名や
交響楽団名は今も昔もこの世の中に存在していないことが確認されている。
彼等はPhantom Conductor、Phantom Orchestraと呼ばれる存在だ。
恐らくはこれ以上の数の" 幽霊 "達の音源が今も街なかに彷徨っている。
もう既に貴方のレコードライブラリの中に潜んでいるかも知れない。
「幽霊たちの演奏を録音したレコード」とは 一体。。。
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幽霊の仕掛け人たちと、その余波
幽霊指揮者、幽霊オーケストラが生まれたカラクリとは。
ここで一つの代表的な例を挙げてみようと思う。
ドイツの指揮者兼音楽プロデューサーであるアルフレート・ショルツ
(Alfred Scholz)という人物がオーストリア放送協会の放送用録音を
大量に買い取り、PILZというレーベルを設立し"自身が指揮した
(或いは架空の演奏家のもの)"として大量に売りさばいた事がある。
幽霊指揮者の演奏とされるCD音源の多くは、この流れを汲んでいる。
身も蓋も無い話なのだが、そのカラクリは泡沫レーベルの中の人が
著作権料をケチる為に架空の名前をでっち上げたのが真相だ。
確かにオバケなら「ギャラ寄越せ!」とは言わないが…
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そうしてクラシック愛聴家の間で何時の間にか都市伝説となった
"幽霊指揮者""幽霊オーケストラ"なのだが、音源自体は確かに存在する。
と言っても本当にオバケが演奏している訳では無く(当たり前だが)、
ならば本当に演奏しているのは誰なのか?という話になる。
必然の流れとして幽霊の正体を突き止めようとする酔狂なクラシック
愛好家も少なからず存在する。真偽の程は定かでは無いものの 幾つかの
録音について「実際の演奏家を見つけた!」と主張する好事家も居る。
実際に「フルトヴェングラー指揮なのでは?」と評判になった
幽霊音源が中古市場で1万円を超える値をつけた事もあるらしい。
名も無きプレーヤー達による演奏がまともなクレジットもされず
様々なメディアに乗って耳に入る事は、BGMやイージーリスニング、
又はバックバンド等で至極ありふれた事として認知されている。
2004年に公開されたドキュメンタリー映画「永遠のモータウン」で
取上げられたファンク・ブラザーズ等は稀有な事例であり、クラシック
音楽以外のジャンルでその事が話題になることは余り無いと思う。
" 幽霊音源 "騒ぎの面白さは、他ジャンルの音楽と比較して識者によって
より強固な権威付けがなされて来たクラシック音楽界隈に於いて、所詮カネ
儲けの為とは云えその権威主義的思考を逆手に取ったところにあると思う。
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幽霊指揮者の音楽を愉しむ
幽霊たちの音源はレコードでも存在しているが、現在ではスーパー
マーケットの店頭や100円ショップ、又は駅ナカのワゴンセール等で
売られている、いわゆる版廉価盤CD等の中に時折紛れ込んでいる。
"幽霊の演奏"を試しに聴いてみたい方、または耳に覚えがあって
幽霊の正体を突き止めようと思われる方は是非お試し戴きたいと思う。
演奏者が判らぬままあれこれ想像して聴くのもまた一興、
もしかしたらフルトヴェングラーの一件以上の大発見者になって
オークションでボロ儲…ゴホゴホッ(結局カネかよ!)
但し───────底抜けに酷い演奏も散見されるので、
呉々も自己負担と自己責任でお願いイタシマス・・
※去年の拙レビュー コノ旋律ニ戦慄セヨ…(夏的な意味で) の続編です。
お盆も明け、残暑もショボくなってきたこの時期ですが、
昨日終わった高校野球に因んで…夏の終わりに思い出ヘッドスライディング!(←寒い