2/13/2011

ブルー・ヴァレンタイン / Blue Valentine


【 at Shinjuku Golden-gai 2011 feb. 】

Blue Valentines

二月になるとその男は憂鬱になるらしい。

なんでも遠く離れた昔の恋人から、
毎年毎年、聖ヴァレンタインの日に
贈られてくる便りが原因だそうだ。

一枚のヴァレンタイン・カード───

それは靴底に入り込んだ小石の欠片のように
ひどく落ち着かない代物なのだという。
それによって忘れてかけていた筈の記憶が
鮮やかに蘇り、男は再び悪夢に襲われる。

::

決まって届けられる一枚のカード───
それは男の過去に起きた一連の出来事と
数々の不逞と悪行の日々を決して忘れ
させまいとする天罰のようにも思える。

「他人をうまく騙せても私は本性を知ってる」
とまるでそう告発するかのようでもある。

喉元に引っ掛かった棘のようにいつまで
経っても男を苦しめ続ける一枚のカード、
或いはジョーカーと呼ぶべきか……

一枚のヴァレンタイン・カード───
憂鬱のカードはどこまでも、地の果てまでも
逃げても逃げてもずっと追いかけてくるのであった。

『ブルー・ヴァレンタイン / Blue Valentines 』
by Tom Waits ( 1978 ) 歌詞より上記・翻案拙文

::

【at Shinjuku Golden-gai 2011 feb.】

Tom Waits

この”ブルー・ヴァレンタイン”というトム・ウェイツのアルバム。
1961年のミュージカル映画 『 ウェスト・サイド・ストーリー 』
からのカヴァー曲 ” どこかへ / Somewhere ” で幕を開ける。
言わずもがな、巨匠レナード・バーンスタインによる名曲である。

現代版ロミオとジュリエットと呼ばれるこの映画をモチーフにした
トム・ウェイツの意図は、フィルム・ノワールだと云われている。
曲名タイトルもそれを醸し出しているであろうか───、

ドラッグストアの赤い靴、ミネアポリスの女からのクリスマス・カード、
血だらけのロミオ、29ドル、ロング・サイド・オブ・ロード、
墓場からの口笛、ケンタッキー・アベニュー、かわいい小さな弾丸、
そしてブルー・ヴァレンタイン……とどうであろう。尚、1978年の
この年、トム・ウェイツは俳優としてのキャリアもスタートさせている。

by gkz

::


参照資料
" Blue Valentines " from album 『 Blue Valentine 』
by Tom Waits / Asylum ( 1978 )
『 トム・ウェイツ全曲解説 』 ケン・ブルックス 著
山本安見 訳 東京書籍 1999年