11/24/2011

北北西に進路を取れ
~ anayoru's recommend ~

今回はアルバム・ジャケットに関する四方山話と
これから開催されるイベントをひとつ

Photograph───その表層に宿るもの

写真とは単に光学化された情報伝達、意思疎通のメディアという側面だけでは収まりきらない何かがあると思う。撮影者の独自な視点や構図の意図は勿論のこと、その作家的思考やインスピレーションの発露は時間やジャンルを超えて多方面に影響をもたらしているのは明らかだ。音楽の世界も然り・・・

とは言え、写真について僕が詳しく知ってる訳ではない。技術的なことも大まかな作家の系譜すらもよく分からないのだが…。それはさておき、今回、アルバムのジャケットに使われた写真の中から幾つか簡単に紹介したい。アルバム・ジャケットを眺めるのは楽しいものだ。

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Bill Evans and Jim Hall - Undercurrent, Blue Note (1962)Toni Frissell
Weeki Wachee Springs, Florida (1947)

写真家トニ・フリッセル(フリーゼル)が撮った 『湖中の女、フロリダ』。湖に浮かぶ女性の姿が印象的だ。仄かな光の世界──暗い闇に飲み込まれながらも、どこかしら虔ましやかな雰囲気が漂っているように感ずる。知人に指摘されたことなのだが、この写真はミレイが描いた婦人像の絵画に大変に似ているそうだ。

そう言われて調べてみると、ジョン・エヴァレット・ミレイ(John Everett Millais - 19世紀のイギリスの画家。ラファエル前派の一員に数えられる) が描いた作品” オフィーリア ”(Ophelia,1851-52)と同じ雰囲気だ。ウィリアム・シェイクスピアの四大悲劇『ハムレット』第4幕7章の一場面がモチーフである。

其身は花もろともに、ひろがる裳裾にさゝへられ暫時はたゞよふ水の面。
最後の苦痛をも知らぬげに、人魚とやらか、水鳥か、歌ふ小唄の幾くさり、
そのうちに水が浸み、衣も重り、身も重って、歌聲もろとも沈みゃったといの。
~ウィリアム・シェイクスピア 『ハムレット』 坪内逍遥 訳 新樹社~


水には光の屈折、フォルムの歪み、色彩の変化、テクスチャーの同質化、影の抽象化など、写真表現の注意すべき要素が多くあると云われる。それらを念頭にトニ・フリッセルも”オフィーリア”を自分なりに表現したのだろう。因みにビル・エヴァンスのアルバムタイトルの”Undercurrent”とは底流の意味だ。

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Eddie Higgins Trio - Bewitched, Venus Records (2001)Jeanloup Sieff
Palm Beach (1964)

僕は前回のエントリーでフランソワ・トリュフォーの映画 『 アメリカの夜 / La Nuit Américaine』を取り上げた。その際に気がついた点がある。それは恋人同士のシーンによく見られるもので───どちらかが相手をしっかりと見据える。が、それは交互に起こり決して同時には見つめ合わないという、言うなれば近距離での”交錯する視線”があることだ。

おそらくは視線の動きで戸惑いと肉体的な接触の願望を表現しているのだろう。心理的に隠された欲望をごく自然に提喩するものだ。トリュフォーが拘る演出のひとつだと思う。

上記を踏まえて、写真家ジャンルー・シーフ (Jeanloup Sieff,1933年、パリ生まれ。 『VOGUE』 等で活躍)による作品を見て欲しい。

煙草に火を移そうとする男女───この写真は煙草をモチーフにしている。そして同じように”交錯する視線”で構成されている……と思うがどうだろう。そういえば今年の6月にはジャンルー・シーフのポートレート展が東京日仏学院で開催されていた。(注:リンク先三枚目画像)

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Chet Baker - Chet Baker Sings and Plays, Pacific Jazz (1955)William Claxton
Chet Baker Sings and Plays (1955)

次に、写真家ウィリアム・クラクストン(パシフィック・ジャズ・レコードの写真とデザインを担当)によるアルバム・ジャケット。このアルバムはティーンエイジャーの少女の部屋によく掛かっているようなクリップボードを真似てデザインが為されたと云われる。

そして少年時代にこのアルバムにインスピレーションを受けた男がいる。彼は写真家となって成功し、後にこのアルバムのアーティスト本人のドキュメンタリー映画を撮ることになる・・・興味があればこちらを御一読願いたい───チェット・ベイカーに魅せられた二人の写真家───レッツ・ゲット・ロスト / Let's Get Lost

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最後に、恵比寿にある東京都写真美術館で開催される
「日本の新進作家展 Vol.10」を紹介して終りにしたいと思う。

Contemporary Japanese Photography vol.10, December 10 (Sat) - January 29 (Sun) 2011left: Maiko Haruki
Either portrait or landscape 1A (2007)
right: Sohei Nishino
Rio de Janeiro (2011)

日本の新進作家展vol.10
写真の飛躍
会 期: 2011年12月10日 ( 土 ) ~ 2012年1月29日 ( 日 )

Contemporary Japanese Photography vol.10
elan photographic
Period: December 10 (Sat) - January 29 (Sun)

コンステラツィオーン(Konstellation)と言う単語がある。それは個人の精神世界や深層心理に関係するものだ。つまり困難な状況に直面したり重要な事柄に遭遇したときに、心の内的世界と呼応する外的世界の事物や事象が特定の配置を持って現れることをいう。布置とも呼ぶそうだ。

Photograph───表層に宿るものは何かと考えたとき、認識や感覚をより覚醒させてくれるのが写真だと思う。或いは、むしろ視覚そのものから得られる感覚と研ぎ澄まされた感性に純粋に触れてみることが大事なのかも知れない。

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by gkz